1部分:第一章
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すか」
「ボトルで宜しいですか?」
「はい」
彼女は答えた。
「それでなければ駄目なようなので」
「?」
バーテンはそれを聞いて怪訝な顔をした。
「駄目とは」
「いえ、何でもないです」
だが彼女はその言葉は誤魔化した。
「こちらの話ですので」
「そうですか。ではどうぞ」
バーテンはカウンターから一本のボトルとガラスのグラスを出してきた。
「ごゆっくり」
「はい」
彼女はこくりと頷きグラスに入れられるロゼのワインを見ていた。それはトクトクとガラスの中に入りそのグラスを薔薇色に染めていた。彼女はそれ越しに店の中を見回していた。
店の中の客達は会社帰りのサラリーマンやOL達ばかりであろうか。かって多くの文豪達が出入りしていたとは思えない程ごく普通の店である。だがその店の香りは何処か違っているように思えた。それは今目の前にあるワインのせいであろうか。彼女は今そのワインが注ぎ込まれたグラスを手に取った。
そしてそれを口に近付け含む。口の中をワインの赤く、退廃的な香りが支配する。少し飲んだだけでその誘惑に溺れてしまいそうな、そうした危うい香りと魔性を漂わせていた。
その魔性を一口含むとそれまで映っていた全てのものが変わったように思えた。そしてグラス越しに何かが見えて来るのであった。
「いらっしゃい」
だがバーテンの声がその目に映るものを真実だと教えている。今彼女が見ているものは現実の世界なのである。だがそれはとても現実の世界には見えないように思えた。
店の扉が開きそこから一人入って来る。薔薇色に染められたグラス越しにそれが映っている。黒いスーツと白いカッター、そして赤いネクタイに身を包んだ若い女性がやって来る。黒く切れ長の二重の瞳に白い、蝋の様に白い顔に薔薇よりも紅い唇。夜のそれよりも黒い髪は上で束ねている。その女性がゆっくりと店に入り、そして彼女のいる店の端へとやって来たのであった。
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