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Impossible Dish
第四食
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忘れるほど馬鹿ではない。きっと兄の聞き間違いだろう。

「どちらにせよ、そんなことは良いわ。早く続きを教えなさいな」
「……っ、失礼いたしました。それでは再開しましょう」

 呆けた顔を引っ込めて笑みを浮かべた兄は言葉の通り教鞭を持ち直した。だけど、どことなくその笑みは悲しみの色が滲んでいたように見えた。

 そういえば、兄のことを今まで何て呼んでいたかしら……? 
 そんな思考が過ぎったのも束の間、次々と飛んでくる教えの濁流に飲み込まれた。



 兄に師事し始めて早くも一週間が経とうとしていた。一日というのはこんなにも短いものなのかと驚愕したのは新しい。
 前までは自室で教育係りから与えられた宿題を淡々とこなして、何もすることなく適当に読書して、ふと時計に目をやってはまだこんな時間かとため息を付く。そんな日々だった。他はどこかの料理店から依頼される味見役として働くだけ。それも一口含みコメントするだけの、およそ仕事と言えるようなものじゃない仕事だ。
 あとは夜にやってくる拷問もとい兄の料理を鑑定することくらいか。

 つまらなかった。何の刺激のない日々に身を委ねるだけ。さながら機械のように、誰かに言われない限り活動しなかった日々。
 ところが今はどうだ。宿題と並列して兄から譲って貰った参考書を読み漁っては部屋を飛び出して兄の厨房の戸を叩き、ちらりと目に入る時計の針を見てもうこんな時間かと少し落ち込み、早く明日にならないかなと目が冴えながらもベッドに潜り込む。暇つぶし程度にしか感じていなかった仕事が時間の無駄と感じるようになってきて、早く終わらないかと時間を気にするばかり。

 楽しい。すごく楽しい。どうしてもっと早く気づけなかったのかと後悔を覚えるくらい充実した日々だ。鏡を覗き込んでも下がりかちだった目尻が活気を含んでいるように思える。

 どうやら私には味覚だけでなく、料理全般に通じる才能があったようだ。寝る間も惜しんで習ったことを復習したり熟読していたお陰もあって、今では兄に追いつかんばかりだ。まあ、伊達にあの修羅のような厨房を築き上げて篭っていただけあって知識も技術も定着している兄の教えは世辞抜きで上手なのも要因の一つになっている。
 兄も大層驚いており、教えようとしていたことを既知のものと知ると「さすがです」と誉めてくれた。今まで聞いてきた誉め言葉の中で一番心に響く言葉だ。

 午前の煩わしい一般教育を終えた私はいつものように兄の厨房に飛んでいった。今日は何を教えてくれるのかと心踊りながら屋敷の端にある戸の前まで来たとき、いつもはピタリと閉じている戸が少し開いているのが見えた。
 閉めそこなったのかと思って近づくと、中から話し声が聞こえてきた。叩こうとした手を引っ込めて覗き込んでみるとおじい様がい
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