虎と龍の思惑に
[5/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
クリ、と胸が痛んだ。
これでいいんだろうか。これが正しいんだろうか。また、彼女が嫌う戦場に向かわせるしか無くなった。
なんのことは無い。
どうせ自分も、あの女と同じ最悪の軍師だ。
何せ、愛しい人さえ、自分のわがままの為に利用しているのだから。
――恋殿……ねねは……
彼女の想いを知るモノは誰も居ない。
日輪が突き刺すような光を向ける昼間の事だった。
†
他愛ない、と感じ始めた頃合い。些か数は多かったがそれでも戦えない程では無く、連戦に次ぐ連戦であっても身体は羽のように軽い。
だからだろう。その音が聴こえた時に自然と笑みが零れたのは。
雄叫びと銅鑼の音。戦が正常に動いているという証明のような合図。ただの賊討伐のような戦では無い戦場の空気。
ケモノのように人を殺していた自分の脳髄が一寸冷えた。カチリと切り替わった頭の中は、最適解を出すと同時に口を開かせた。
「方円陣展開っ! 守りを固めよ!」
到着してからでは遅い。アレは気合を入れて掛からなければ呑まれると勘が告げていた。
兵士達は長年付き従ってくれていたからか、冥琳の指示を待たずに雪蓮の指示に従いすぐさま陣容を変える。合わせるように後続の者達も陣容を変化させていた。
――さすが冥琳……よく合わせてくれる。
増援は期待していない。冥琳の計算上はまだ掛かるらしいから。本城で全ての兵が合流するまでに各個で叩いてしまうのが一番なのだ。
せめてそれくらいはしてくれないと困る。亞莎も穏も次世代の軍師。いつまでも冥琳を追い抜けないようでは未来は無い。
蓮華にしても、この状況を打破する策を実直に考えているだろうからきっとしてくれると信じている。
祭はきっと問題ない。あの人はいつでも経験から判断してくれるし、思春は得意な水上戦闘にもつれ込ませれば敵は居ない。
それぞれがそれぞれの役割を果たせばこの程度の戦などすぐに終わらせられる。
だからだ。私と冥琳だけは……此処に来なければならなかった。
一番的が集まり易くて、それでいて一番……死が近しいこの場所に。
開けていて丘から見渡せるこの場所なら、陳宮と飛将軍は間違いなく出てくる。私が長時間戦闘を繰り返せばそれにつられてのこのこと出てくる。
まずは前に立たないと始まらない。此処で逃げられるのは拙い。悠々と掻き乱すだけ掻き乱して逃がすなど……許すモノか。
――六人がかりでも抑えられなかった最強の武人を私一人で……
弱気にはなっていない。むしろ望むところ。此れが私の仕事で、孫策の、雪蓮のしたい事なのだから。
私は戦う事でしか彼女達に教えられない。
私は戦う事でしか皆を守れない。
私は戦う事でしか
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ