閑話―猪々子― 下
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「明日で良いや、大した用事じゃないし」
「そうか、お休み猪々子」
「ああ」
猪々子は早々に踵を返してしまった。からかいすぎたか? などと少し反省する星。
空気を読むことに長けた彼女にしては珍しく、猪々子の表情の変化には気がつかなかった。
「……」
早足で自室に向かいながら猪々子は、先ほどの星との話しを思い出して不機嫌そうに顔を歪めた。
そしてそれでハッとする。自分は何に腹を立てているのだろうか、わからない。だが――
思えば、袁紹の部屋にいるのが女だとわかった時からだと思う。
あれ、何故女だと腹が立つんだ?
「き、きっとあれだ。斗詩を放っておいて星に手を出したからだ!」
そう結論付けた。それが一番自分の中で納得できる理由だからだ。
だがその理由だと、袁紹の部屋にいたのが女だとわかった時点で、斗詩の可能性もあるのに腹を立てたことの説明にならないのだが――猪々子はそれを頭の中からかき消した。
「斗詩、真面目な話しがある」
「ぶ、文ちゃん? どうしたの急に――」
その翌日、猪々子は昨晩の出来事を、斗詩をたきつける理由に使おうとした。
「この間、麗覇様の寝室から星が肌着で出てきた」
「……嘘」
表情が固まり、言葉の真意を聞こうとする斗詩。効果は抜群だ! と内心口角が上がる思いで言葉を続ける。
「マジだって、アタイがこの目で見たんだからさ!」
「でも、星さんにそんな素振りは無かったじゃない!」
「いや、そうでもないぜぇ? この前なんか麗覇様の事を根掘り葉掘り聞かれたしさぁ」
「……」
猪々子の言葉に顔面蒼白になっていく斗詩。少し気の毒だが、彼女はこのくらい言って聞かせないと動くような女じゃない。基本的に一歩引いた性格ゆえに消極的だ。
「だからさぁ斗詩は、夜這いでも何でも仕掛けていかないとヤバイぜ? そん時はアタイも協力するからさ! 声掛けててくれよな!!」
「……」
まるで魂が抜けたのではないかと錯覚するほどに、こちらの言葉に反応を示さない親友。
猪々子は諦めるものかと言葉を投げかけ続け、曖昧ながらも、彼女を頷かせることに成功した。
変化が訪れたのはその翌々日である。前日までの呆けた表情が嘘のように笑顔を振りまき、鼻歌まで歌いだしながら仕事に励む斗詩。
あ、これヤッたな、と一瞬で猪々子は理解した。星の時のようなイラつきは感じられない。
だが何故か、何かを失った虚無感に苛まされた。
いつも通りの猪々子なら、ここであっけらかんと斗詩に初夜の感想でも求めていただろう。だが何故かそれをする気にはなれず。彼女に便乗して自分も袁紹に〜
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