閑話―猪々子― 下
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やがて意を決し口に運ぶ。だが意外、彼女が想像していたものは訪れない。
あれ? 全然――などと油断したその時である。
「ッッッッ!? 〜〜〜〜っ!!!」
一瞬にして顔を赤くし。声にならない悲鳴を上げる。元来、辛さとは強ければ強いほど後から刺激がくるものだ。それを猪々子はあろう事か、口に入れた途端油断し。舌全体で味を確かめようとしてしまった。
「〜〜〜ッッッ」
毛穴という毛穴から汗が吹き出る。飲み込まなければいけないのに、これほどの刺激物を喉に通す気になれず。口内に残ったソレがまた刺激を生み出し。悪循環となっていた。
「〜〜……はぁ、はぁ」
ややあって何とか飲み込む。顔面は蒼白、汗を流しすぎて水分が不足しているのか、意識は朦朧としだしている。そしてふと、隣で『ソレ』に挑んでいるであろう人物に目を向け――
目を見開いた。其処には激辛料理をものともせず。口に運び続けている主であろう者の姿。
「す、すげぇ……」
その言葉を最後に猪々子は意識を手放した。
「――文醜選手気絶、よって勝者! 袁紹様ーー!!」
係りの者達に運ばれていく猪々子を横目に、袁紹は大会優勝者として腕を掲げる。
やがて歓声が止み、彼は会場全域に響かせるように声を張り上げた。
「皆のもの、夕食時の出店の料理は無償とする! 支払いには今大会の優勝賞金を当てる故、好きな物を好きなだけ食べて行くと良い!!」
その豪快な宣言に再び大歓声が鳴り響く、それに紛れて桂花の悲鳴が聞こえた気がしたが――気のせいだろう。袁紹は始めからこれが目的で大会に出場していた。民衆に祭りを楽しんでもらう為でもあるが――
やはり祭りの中の自分はこれ位派手であるべきだ。という私欲から来ていた。
自分に発せられる大喝采に、僅かに震えながら歓喜する袁紹。彼の派手好きは、様々な祭りで民を、そして自分を喜ばせるものだった――
もしも六品目が激辛料理で無かったら袁紹は負けていただろう。そこには必然ではなく、彼の豪運が大きく関係していた。
実は大会用の料理は五品目までだったのだ。一般の大食い自慢たちが全員脱落しているように、その量は半端な物ではない。係りの者達が甘く見ていたわけでもない。
まさか合計で体積の数倍もする五品を、平らげる人間がいると誰が思うだろうか、だが実際に袁紹と猪々子の両名は五品に届いてしまった。
係りの者達は焦った。六品目を用意していなかったからだ。そこで出店に目をつけた。
いくつか見て回ったが昼時というのもあり、殆どの出店が料理を出し尽くしていた。
そんな中、大きな鍋から大量の湯気を出している出店を発見、係りの者は藁にすがる思いで、売り子とされる三人娘に
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