トワノクウ
第三十三夜 千一夜(二)
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“過保護なんだねえ
“箱入り?
“ウチなんか田舎暮らしだし。いいなー、便利でしょ
“都会で親と同居とか贅沢じゃん
親と離れて暮らすのが「普通」のご時世で、くうはクラスの中でも浮いた存在だった。もちろん、くう自身の性格が集団になじまないことも理由だが、「親と同居」はそれほどに恵まれた環境≠セったのだ。
「周りに親と同居している子は一人もいませんでした。それを知って、ああ、私はそんなにもお父さんとお母さんに可愛がられているんだ、と思い知りました」
世間一般の普通≠ノ背く過剰な愛を注がれた子供は、内側からパリンと壊れてしまった。
「だからね、できれば育ててもらった恩に報いたいし、愛された分だけ返したい。お父さんとお母さんの自慢の娘になりたい。お父さんとお母さんが喜ぶことなら何でもしたい。全部、くうの本心なのに。言えば言うほど、心がカラッポになっていくのよ」
くうは大きく息を吸い、吐いた。夜気が肺に染み、胸を冷やした。
「自分で、決めたかったな」
星空に独白を零す。
「―――私が生きる理由……私が、自分で決めたかったな―――」
風が吹いて、白い髪を慰撫して去った。
「泣けばいい」
言ったのは、梵天。
「そんなにいびつにしか笑えないなら、いっそ泣いてしまえばいい」
もし運命が一つでも違えば、ただの叔父と姪として会えていたかもしれない彼の言葉で、臨界を超えた。
くうは梵天の胸に飛び込んだ。
「私、もう、どうすればいいのか分からない!!」
しがみつく。吐き出す。思いの丈を、心の痛みを。
「菖蒲先生は、自分で考えずに人に聞くのはずるいって言ったけれど、もう私、自分で自分が分からないの! お父さんとお母さんから生きる理由まで与えてもらって、カラッポな私がようやく満たされるはずなのに、私、前よりむなしくなってる! 世界で一番大好きなお父さんとお母さんが、こんな私に期待してくれているのに! 私にとってすごくうれしいことのはずなのに!」
涙が溢れて、溢れて、溢れて。
ガランドウにこだまする父と母の願いが、篠ノ女空を内側から殺していく。
「お父さんとお母さんの期待で満たされないんじゃ、もう私、どこへ行けばいいのか分からない……!!」
ふいに梵天の手が背中に触れた。
「君ってほんと……損な性分だよね」
深い深い実感のこもった声に、どうしてだろう、涙が少し引いた。引いた涙の分で、くうは顔を上げる。
「俺は君が欲しがるような慰めは口にしないよ。少なくとも、親に否定されたことはないからね」
くうは肯く。充分以上に理解している
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