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トワノクウ
トワノクウ
第三十三夜 千一夜(二)
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 ならば、くうは朽葉のいる寺へ帰らなければならない。
 翼を広げようとして、梵天に止められた。化物道を使ったほうが早い、と。

 くうは肯き、梵天が開いた化物道を通り抜けて、寺の境内に出た。


 境内には、露草と、尼姿の朽葉が待っていた。

「くう!」

 朽葉が走り寄って、くうの頬から髪にかけてを撫でた。肉刺だらけの手の感触が、それでも、上質なコットンのように心地よい。

「あいつから、聞かせてもらった。お前の両親がどんな思惑をもってお前を産んだか。――大丈夫か?」

 頬にあった朽葉の手が肩へ移動した。労わってくれている。

「平気。くうは、へっちゃらですよ。ちゃんと知ってますもん。お父さんとお母さんがくうをいっぱい愛してくれてたの」
「なら産まれなんて気にしなくても……」

 言いさした露草を梵天が無言で制した。

「姉と篠ノ女の愛情が本物でなかったら。血の繋がった娘だから愛されてたんじゃなく、鴇時を救う『道具』として期待されてただけなんだとしたら。君はそれが怖いんだろう?」

 梵天の指摘は残酷なほど的確だった。

「――そうよ」

 ぎり、と唇を噛み締めてから、くうは強く睨んだ。

「親に子を愛する義務なんてないわ!!」

 肺腑から抉り出した絶叫には、さしもの兄弟も朽葉も呆然としたようだ。

「親にとって子供は厄介者か嗜好品のどっちかよ! だから! 愛するのが当たり前じゃないから! 親からの愛情は尊いんじゃないの!」

 露草が唖然としてくうを凝視している。

 いい気味だ。自分の知る世界がいかに狭いか思い知ればいい。この心の痛みに、平気な顔をしている彼を引きずり込めれば、どんなにか胸が空くだろう。

「くう」

 低い声に肩が跳ねた。

 梵天がくうを見ている。憐れむようなまなざしで。

「彼岸ではね、親は子供を殺す生き物なんです」

 落ち着くためにも、胸の内を口から出してしまうことにした。

「泣きやまなくてイライラして殺しちゃった、なんて日常茶飯事ですからね。だから、殺さず育てる親って偉大だと思います」

 ニュースでは当たり前に報道される子殺し。
 初めて見た時はショックだったが、今では()()()()世の中なのだと思える。

「でもそれより、自分が親元で育ったってことのが大きかったですね」
「? 人間の子は親元で育つものだろう?」
「彼岸では、子供は五歳程度で教育施設に入れられます。最近の家庭ほどその傾向は顕著ですから、都会で親と一緒に生活できる子供は、よっぽど親に溺愛されている子供だけなんです。中学の頃は毎日うるさいったらなかったなあ」


 “篠ノ女さんて親と一緒に暮らしてるんだー


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