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トワノクウ
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第三十三夜 千一夜(一)
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練習に、突っ走ったステージ。

 篠ノ女空にとって宝物だった全て――ただの余分、不純物、脇道。

「『空』という名前はね、本当に『何もない』って意味なの」

 萌黄かどうかも分からない人物は、語り始めた。

「私達が託そうとした身勝手な願いさえなしに、まっさらにして産んであげたかった。だから『空』にしたの。でもくうには届いてなくて、くうを苦しめちゃったね。……ごめんなさい」

 くうは両手を握り締めた。

「信じない! 信じない信じない信じない……!」

 懸命に、頑なに否定した。

「そんなの後知恵にしか聞こえないわ! こんな産み方をした私に申し訳なくて、そういう意味付けを後から足しただけでしょう!?」

 相手を傷つけるためだけの酷い言葉が、自分の口からこんなにも滑らかに出ているのを、どこか冷めた部分が分析している。

「ごめんなさい、お母さん。今は、何を言われても受け入れられないの……」

 叔母に出会い、出生を聞かされ。くうの頭と心ははち切れる寸前だった。萌黄が誠心誠意訴えたところで、くうには到底聞いていられない。

 俯いていた視界から、母の足が粒子に散るように消えていった。
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