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トワノクウ
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第三十三夜 千一夜(一)
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まんないよ?」
「でも知っておくべきだから。家族ですから」
「本当に君はいい子だなあ」

 明は快活に笑った。

「――まだ小学生だったっけ。もう曖昧。紺お兄ちゃんに会ってみたいなんて気まぐれ起こして上京して、大江戸幕末巡回展に行ったの。初めての都会が物珍しかったのかな。お兄ちゃんを探すのを忘れて遊び回った。そこのゲーセンで、たまたまやったゲームをプレイした瞬間、私はあまつきに引きずり込まれた。そのゲーム機ってのが、たまたまお兄ちゃんがあまつきに不正ログインするのに使ってた筐体だったの」
「昏睡したからあまつきに来たんじゃなくて、あまつきに来たから目覚められなくなった……?」

 兄妹の繋がりを確かめに行った者が、その繋がりによって非情の世界に放り込まれた。何という世界の皮肉。

「正解。知らずにお兄ちゃんと同じリソースでここへ来た私は、よりによって夜行なんてメインプログラムに目を付けられて、回収されてしまった。そして閉じ込められた。電子の海の底の、さらに底へ」

 ここで明は初めてネガティブな表情を浮かべた。

「この辺はさすがに千歳の選民思想を恨んだ。帝天を出し抜いた篠ノ女紺の妹なら、同じくらい優秀な頭脳の持ち主に違いないって? 馬鹿か。私とお兄ちゃんじゃあ、能力はあっても特化してる方向がまるで違うのに。――ここは土の感触がしない。木の香りがしない。光はただのライト、雨はスプリンクラー、空には網! 全部が全部、本物じゃない! 私を帰せ! 山に、森に、川に、本物の大自然の中に!」

 明は肩を上下させて息をしてしばし、冷静な顔に戻った。

「……ってね。最初は怒鳴って泣いて叫んだりもした。でもさ、これでも農民だから? 諦めるのって慣れてるのよ。で、『今』『この場』でできることないかなあって考え始めたのよ」

 強い。くうは率直に思った。篠ノ女明は強い人だ、と。
 諦めるという行為のネガティブ面を、明はポジティブなベクトルに向け直すだけの精神力の持ち主なのだと。

「――もしかして、六年前の坂守神社襲撃事件は、そのために?」

 鴇時と鶴梅が投獄されていた時。夜行による結界の破壊と操られた蛇の大妖の大暴れに始まり、ついには神社の敷地にあった全てが黒い穴に呑まれた――という話を、朽葉たちから聞いた。

「変だと思ったんです。だって()()()()()()()()()()。鴇先生が狙いなら、助けに入った露草さんと空五倍子さんが鴇先生を救出して、社の敷地を出てから強奪すればいい。そうすれば罪は全て天座が被ってくれる。なのに、明おばさんはそうしなかった。あえて蛇妖を暴れさせて、あの場に天座も陰陽衆も、脅威になりうる全員を集めた上に、怒らせるために知り合
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