トワノクウ
第三十二夜 明野ヶ原に花開く(二)
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た。くうと真朱が起こした騒動のおかげで結界は綻びていたし、梵天自身、くうを回収するために菖蒲からあらかじめ免状の印を刻まれていた。
天敵の領域において、どの祓い人に悟られることもなく、こうして菖蒲の話を聴けた。
梵天は分析する。――新しい銀朱≠フ言葉を鵜呑みにもできず、しかし今日までの戦いに比べれば充足と意義を見出せるのではないかとの疑いも消せずという、祓い人たちの感情の揺らぎ。
(まだだ。まだ危うい。敵意の完全な払拭は完全な信頼でしか果たせない。どう押す、菖蒲)
「人の負の心がこれ以上妖を生み、世を乱さぬよう、まずは人が変わらねばならない。憎しみや悲しみ、恨み、鬱屈、かような情念に呑まれぬよう、心を強く持ち、自ら立つ精神を養うこと。それを達してこそ我らに真の勝利が訪れるものと――」
――遠くから、人のものではない悲鳴と、銃声が、した。
菖蒲は、はっとして片膝を上げた。
大広間の祓い人たちにも一連の音は聴こえていたようだった。ざわ、ざわ、とまた困惑の空気が戻ってきている。
大広間を見渡した。一角、人数の減っている箇所があった。その一帯の席に座っていたのは、どの土地の祓い人だったか。
(出雲と、幣立。組んだのか。まさかよりによって情勢を崩すのが信念の対立でも見解の相違でもなく、ただの権力闘争とは!)
否。菖蒲は心中で忌々しく、憎々しく否定した。
人の醜さなどとうに知っている。妻を喪ってからぬるま湯の隠棲生活を送る内に忘れていただけだ。
菖蒲はすぐさま、かつて坂守神社にいた頃と同じに、巫女たちに指示を飛ばした。
「先走った者達を捕えて動けないようにしなさい! 結界の強化を! 刺激された森の妖に入られたら一巻の終わりですよ!」
巫女が弾かれたように大勢駆けて行く。
菖蒲は見送り、広間の隅に目をやった。――誰も、いない。
(行きましたか、梵天。せめて一体でも多く撤退させてください。勘気を起こせば全面戦争は避けられませんよ)
梵天は心を戻して飛び起きた。
横には露草、空五倍子。
「空五倍子、今すぐ俺を社の境まで運べ! 露草、森で血気に走った妖はどれだけいる?」
露草は面食らうも、すぐに樹妖としての森との繋がりに意識を集中した。
「……、……、ざっと四十! 何でだっ」
「祓い人の中の馬鹿な連中が境で仕掛けてきたんだ。止めるぞ。このままだと全面戦争になる」
「な! それじゃ今日まで何のためにお前が……」
「愚図るのは後だ! 行くぞ!」
告天の狭間の場所≠ゥら戻ってきたくうは、森と坂守神社の境界近くから、殺し合いを始めていた祓い人集団と雑妖の群れを、見た。
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