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トワノクウ
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第三十二夜 明野ヶ原に花開く(一)
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イプだから。――痛い想いをしたのね。かわいそうに」

 明は何のためらいも見せずにくうに歩み寄り、くうを抱き寄せた。あまりに自然な動作だったので、振り解けなかった。

「元は緑さんのための疑似世界。でも研究規模が広がるにつれて、緑さんさえ実験体の一人に過ぎなくなっていった。しまいには実験場だった病院の患者全員が、あまつきのアバターになった」
「私、は?」

 明がくうを離した。

「私も、梵天さんや患者さん達みたいに、どこかで昏睡してて、この『私』はアバター、なんですか?」
「ここに来る直前、君はどこで何をしてた?」
「アミューズメントパークで、体感型ゲームに、薫ちゃんと潤君と一緒に……あっ」

 きっとその時だ。くうの意識があまつきに転写されたのは。セットプレイだった薫と潤も、だから。

「大丈夫。あたしが保証する。告天の権能がある今のあたしなら、そのくらいのことは分かる。君はちゃんと篠ノ女空だよ。誰かが設計した、現実世界にはいない電子キャラクターじゃない」
「明おばさん……」
「またそう呼んでくれた。やっぱり嬉しいなあ。お兄ちゃんに感謝しなきゃ。家族を増やしてくれてありがとうって」
「帰ったら伝えますっ。絶対、伝えます!」
「いい子だね。くうは」

 明は、笑った。

 母・萌黄は、笑わないではないが、寂しげな笑みを浮かべていることのほうが多い。
 だから、留意なく笑う明に対し、くうの中の敵意は徐々に鳴りを潜めつつあった。

「――梵天が妖を暴走しないように躾けて、時代の移ろいによって妖を信じる人も視る人も減ってきた。けれどしょせんは継ぎ接ぎプロトタイプ。銀朱と真朱を中心として、あまつきはゆっくり壊れていった」

 想ったのは梵天と菖蒲だった。この世の本当のこと≠知っていた彼らはどんな想いで崩れゆく世界で生きていたのか。想像すると切なかった。

「ギリギリ薄皮一枚で保ってた世界に、最後の爆弾になったのが君の『鴇先生』。六合鴇時っていう、お兄ちゃん――君のお父さんの友達」
「鴇先生が……帝天になったから?」
「そう。あの人が帝天の権能で、雨夜之月を再構築したから。――ここはプロトレプリカ。プロトタイプのバーチャルをさらに劣化コピーしたのが、この世界なの」

 劣化コピー。
 壊れた継ぎ接ぎをさらに継ぎ接ぎにした。
 プロトレプリカ。

「あくまで鴇時さんが覚えてる範囲での再構築だから、プロトレプリカにはプロトタイプ以上の綻びがある。それでも鴇時さんは、自分が知ってるあまつき≠どうしても存続させたかった。あの人は、あまつき≠フ人と妖が大好きだったから」

 分かる。鴇時はくうの師だ。六合鴇時なら必ずあまつきの維持を望むに違いないと、分かった。

「ここまでのこと全部
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