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トワノクウ
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第三十二夜 明野ヶ原に花開く(一)
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(たい)は鳩羽のモノだったから、実感が湧きにくいよね。そういう意味じゃ坂守神社戦もだめかあ。あ、じゃあ、今様と中村屋の時にしよっか」
「っ……てめえ!」
「ふふ。怒ってる君、好きよ。とてもいい木の香りがするから。――君はどうかしら、梵天。どう揺さぶれば激昂してくれる? そうなった時の君って、羽毛がいっぱいお日様の光を吸収した匂いがして、気持ちいいの」

 表情だけを見れば、純朴な田舎娘なのに。

 震えが止まらない。聞いてはいけない。理解してはいけない。篠ノ女空の根幹がそう訴えている。

「私の言ってることの意味も分からないって感じね」
「耳を貸すな。奴の言葉には狂気しかない」

 梵天に鋭い制止を投げかけられ、くうはびくりと震えた。

「明おばさん……」

 夜行はきょとんとした顔になり、次いで腕組みして肯いた。

「おばさん、かあ。言われるとキツイと予想してたんだけど、姪っ子相手だと意外と効かないなあ。うん、いいね、『明おばさん』。家族って感じがして」
「どう、して。あなたは遠い田舎に暮らしてて、会うこともないって、お父さんが」
「そう――未だにあたしに会う気がないんだ、お兄ちゃんは」

 夜行が鈴を鳴らした。すると一瞬にしてまた風景が塗り替わり、昏い空間にくうは立っていた。
 ひらり、ひらり、と水面に舞い落ちるのは、椿の花びらだろうか。

「狭間の場所。梵天が造るのと同じ、天の耳を遮断する結界よ。梵天と露草はいちいち煩そうだからね。強化版で。――ここで叔母さんが教えてあげる。気持ちいい呼び方をしてくれたお礼にね。この雨夜之月の生い立ちと、貴女と、貴女のお母さんと叔父さん、千歳の血を引く者達の因縁を」






「全ての始まりは二十年以上前。君の叔父さん、千歳緑が誘拐に遭って、その時の怪我が元で全身不随になったことに端を発するわ」
「緑……おじさん」
「知ってるのね」

 くうはためらいがちに肯いた。
 母に聞いたことがある。若くして没したという母の弟。顔も知らない叔父の、悲しい人生の、断片。

「緑さんの体を治すために、君のお母さんの萌黄さんは苦労に苦労を重ねて、何とか緑さんの意識だけは自由に動かせるような仕組みを造れた。それがここ、あまつき」
「――え?」

 唐突に彼岸とあまつきが結びつき、理解が追いつかなかった。

「あまつきとはね、跡取り息子のために千歳コーポレーションが造った脳内ホスピスで、ターミナルケアシステム。要するにバーチャルリアリティなの」
「この世界が……バーチャル? うそ。だって、あんなに痛かったのに、苦しかったのに。ショックオンリーなんかじゃない、本当の痛みだったのに!」
「ここはショックオンリーが開発導入される前に造られたプロトタ
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