トワノクウ
第三十一夜 鶸萌黄
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。そのくらいはできる。
探せばいい。あの子も君を探して惑ってるわよ
鳴り響いた声は少女のものだった。
「どこだ!」
ここよ、ここよ。あはははははっ
声が反響するせいで場所がすぐに分からない。
梵天は、相手にもっとしゃべらせ、神経を研ぎ澄ませて声の位置を探ることに専念することにした。
あの子に懐かれて嬉しかった? 慕われて愛しくなった? なるはずよねえ。だってあの子は千歳萌黄の血を引くたった一人の娘なんだから
「……何故そこで姉さんの名が出る」
千歳萌黄。かつて鴇時の前に帝天であった、梵天にとっては加害者であり被害者であった姉。
あの子に千歳萌黄を重ねて、ピンチに救いに現れて。ヒーローごっこはさぞ痛快だったでしょうね
「何が言いたい」
だって君、ずっと千歳萌黄に成り代わりたかったんでしょう?
「――!」
隠さなくていいよ。分かってるから。君、お姉さんに自分の居場所、奪われちゃったんでしょ? だから『こっち』に居たがったんだよね
下手に答えると、どんな解釈でどんな責め句を使ってくるか知れたものではない。
沈黙を通す。相手が有利になる材料は与えない。
よかったねえ。漆原が逮捕されて千歳コーポレーションも解体されたのに、まだ仮想世界に留まれて。ここには親兄弟の愛も、種を超えた友達もいるしで、まさに楽園。友人と呼んだ異邦人をお姉さんとすげ替えてまで生き永らえた甲斐があったねえ
「声」は愉快に語り続ける。他者の心を引き裂くのが楽しくて堪らないのだと言うように。
他でもない君が救いたかったお姉さんを、救ったのは誰だった?
絡みつく声。煩わしい、厭わしい。
君からお姉さんを奪って子供まで産ませたのは誰だった?
戯言だ。耳を貸したりしない。
欲しいポジションを全部別の男に奪われて、それでも姉に義理立てして姪っ子の面倒まで見て、今も姉の残した教えに逆らえない。外に出す顔とは正反対の直情径行
声の位置を掴むことだけに集中し、梵天はついに動いた。
「――うるさいよ、お前」
羽毛を出し、視えない告天を射た。
確かに梵天は特権と引き換えに鉤爪を失ったが、戦う力まで失ってはいない。
「さっきから黙って聞いていれば、全く当たらないくせに得意げになって。それでこっちの胸中を語ってるつもりか?」
萌黄を救いたかった。萌黄の心に光が射せばいいと思った。だが、それらは全て目的の副次的願望に過ぎなかった。
梵天の本懐は、新たな帝天によるあまつきの変容。予定運命の否定。
それをさも、ひた隠した本音を暴くような
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