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【銀桜】8.破壊狂篇
第1話「兄妹はわけもなくケンカする」
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命火を、稀に生きながら背負う者がいる。それはまるで夜の虫を集らせる『光』のようだ、と。
 人を惹きつける力――それこそ『光』が高杉にあるのだろうか。
 あの人を失ってから高杉はどんどん狂気へ堕ちていったのに。毎晩必要以上に迫ってきて、夜な夜な布団の中で弄ばれた。高杉が求めていたのはいつも『破壊』だけだった。
 だから、彼のもとから離れた。
 『破壊』しか求めない高杉の思想についていけな……
――ちがう。
――そうじゃない。
――そこから私は……
「………」
 どうして今更こんなことを思い出してしまうのか。
 闇にまみれたこの倉庫街があの船に似ているせいかもしれない。
 狂気と混沌が渦巻く鬼兵隊の住処(すみか)に。
――くだらない。
 軽蔑して頭の中の思い出を振り払う――が、やはり素直には消えてくれなかった。
 ふと、ある倉庫が双葉の目に止まる。
 その倉庫のシャッターに刻まれた数字は『13』
「………」
 だが謎はすぐに解けた。
 近づいてよく見てみると、それは数字ではなくアルファベットの『B』だった
 その『B』が遠くからすれば『13』に見えなくもない。
 怪談の真相なんてそんなもんだ。双葉はこのろくでもない調査をやめて、身をひるがえした。

 そして奇妙な音が鳴り響く。

                  “カキン” 
           “カキン”

 それは少しずつ、少しずつ聞こえてきた。
 金属と金属がぶつかり合い、何度も何度も止まないリズムを刻む。
 そんな音がB倉庫から聞こえてくる。
――鍛冶屋の霊……まさか……。
 幽霊がいないなんて言わない。というより、前に一度『仙望郷』で本物を見ている。
 この世の未練からの解放を求める何百の幽霊たちが集う温泉宿。
 そのスタンドを牛耳る女将とバトルを繰り広げ、黄泉の門を通り抜けて『あの世』まで行くという尋常じゃない体験をしてきた。
 それでも、『あの人』には会えなかった。
――……全く、今日はよく思い出す。
 ほのかな苛立ちを感じつつ、双葉は中へ入って行った。
 『狂気』と『破壊』が渦巻く倉庫へと。

=つづく=

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