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歌集「春雪花」
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 小夜更けて

  涼しき風に

    虫の音の

 聞くは侘しき

     一人影踏む



 夜も遅くなって、風は真昼の暑さを和らげるような涼しい風へと変わった。
 そんな涼風の中に秋の虫が鳴き始め、なんとも物悲しくなってくる…。

 月明かりは私の影を作っているが…愛しい彼の影はどこにもない…。

 また私は…自分の影を一人、踏んで行くしかないのだな…。



 去りゆける

  時の川面の

    偲びたる

 愛しさ募りし

     夏の夜の夢



 時とは…余りにも儚く過ぎ去るもの…。
 その中にあって、彼と過ごした記憶は愛おしく…いつまでも想い続け、思い出し続けていたい…。

 そんな想いさえ、きっと夏の夜の夢のように虚しいものかも知れない…。

 所詮は選ばれぬ身…ならば、ひとときの夢の中ででも愛されたいと…願ってしまう…。

 それは…愚かな願いだろうか…?




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