A's編
第三十三話 後(2)
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の言葉を最後にしてリィンフォースさんは天上へと続く光に包まれながら、朝霧が光によって払われるように、その存在を消失させた。儀式が行われていた場所は、今までリィンフォースさんが立っていたことを示すように靴の形に沈んだ足跡しか残っておらず、彼女がいた痕跡はそれだけだった。
「リィンフォースっ!!」
消えていなくなったことを嘆くようにはやてちゃんが名前を叫ぶ。だが、それに応えられる彼女はもういない。いないはずだ。だが、いないはずの人間が、彼女の叫びに応えるようにゆっくりと天空から落ちてくる気配を感じた。何だろう? と思い、見上げてみれば、既に頭を出しきってしまい、半分は山の向こう側から見える朝日の光を反射しながら落ちてくる十字架のようなもの。
それはまっすぐにはやてちゃんの手元へ落ちてくる。
―――ああ、まったく、本当に最後の最後まで主思いですね。
その言葉を口にするのは無粋だろう。はやてちゃんの手元に落ちてきたものは、僕にも見覚えがある。夜天の書の表紙に記されていた古代ベルカの剣十字だ。いうなれば、リィンフォースさんの元となったものだろう。彼女は魔導書でなくなりながらも、こうして彼女の手元へと帰ってきた。
僕からしてみれば、きちんと遺言を守っているか見張られているようなものだけど。
はやてちゃんは、最初、手元に戻ってきたものについて理解できなかったようだが、それも一瞬だ。理解した瞬間に彼女の目に涙がたまり、決壊するのに時間は必要なかった。
「う、うぐっ………うわぁぁぁぁぁぁぁ」
それは、感情の発露だったのだろう。彼女は泣く。彼女のを失った悲しみも、彼女を幸せにしてあげられなかった自分の不甲斐なさも、自分の力不足への怒りも、すべてを洗い流すように。リィンフォースさんがいなくなったことを受け止める心が壊れないように彼女は泣いた。
僕が彼女に対してできることは、そんなに多くない。彼女が一人でないことを証明するように小さいかもしれないが、胸を貸すだけだ。どんなに泣いても、彼女の様にいなくならない、と温もりを与えるために優しく包み込み、背中を撫でるだけだ。後で後悔しないように、悲しみを引きずらないように好きなだけ泣かせてあげるだけだ。
はやてちゃんは、僕に抱き込まれるような体勢で泣き続ける。時折、リィンフォースさんの名前を口にしながら。そんな中で、はやてちゃんが持つ剣十字が朝日を反射させ、きらりと光る。まるで、彼女が見ているぞ、とでもいうように。
―――大丈夫ですよ、約束は守りますから。
僕はリィンフォースさんが逝ったであろう空を見上げながら心の中で呟いた。
こうして、今回の事件―――後に闇の書事件を命名された事件はこうして幕を下ろしたのだった。
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