A's編
第三十三話 後(2)
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やてちゃんの言葉にリィンフォースさんも虚を突かれたのか、一瞬、言葉を失ったように驚いた顔をしていたが、言葉の意味をすぐに理解すると何の心残りもないような澄んだ笑みを浮かべていた。
「主はやて、その願いはすでに果たされております」
リィンフォースさんの言葉に今度ははやてちゃんが、はっとしたように顔を上げた。流れる涙は止まらない。だが、それでも視線ははっきりとリィンフォースさんを取られていた。
「無限ともいえる地獄から救ってもらい、美しい名前をいただきました。私は―――夜天の書は、祝福の風は、リィンフォースは世界一幸せな魔導書です」
その笑みは確信めいた笑みだった。それを信じて疑うことのない晴れ晴れとした笑みだった。
「………リィンフォース………」
そんな笑みを見せられては、はやてちゃんはこれ以上、何も言えないようだった。僕からも何も言えない。そもそも、引き留める言葉は僕にはすでにない。だから、僕にできることは彼女に共感するように、リィンフォースさんは間違いなく世界一幸せな魔導書だった、とはやてちゃんが胸を張って言えるように、そんな彼女の隣に立てるように力強く彼女の手を握ってあげることだけだ。
「主はやて、私は―――もう逝きます」
その言葉は儀式の終わりを示していた。形成されていた三角形の白銀の魔法陣が薄暗い朝焼けの中、淡い光を放ち始める。
「蔵元翔太―――」
光に包まれる中、彼女はつかの間、はやてちゃんの握られている手に視線を向け、安心したようにうなずくと今度はまっすぐに僕に視線を向けてきた。その力強い瞳の奥からくみ取れる意志は、信頼か、あるいは託す者への祈りか。僕としてはどちらでもいい。彼女の意志は聞いたし、確かに僕に届いている。僕ができることは、昨夜の遺言を聞き届けることを信じてもらうことだけだ。
だから、僕はコクリと小さくうなずいた。あとは任せてください、と言うように。彼女が安心して逝けるように。
僕の返事が届いたのだろうか、リィンフォースさんは安心したように口の端を緩めるとゆっくりと目をつむった。
「それに小さき戦士たちよ。迷惑をかけた………ここに感謝を。そして、別れの言葉を」
リィンフォースさんの隣に浮かんでいた魔導書がパラパラと自動的に捲れる。一つのページが捲られるたびに彼女の存在が薄くなっているような気がする。やがて、捲られるページも最後に近づいてきたころ、彼女の存在がほぼ真っ白になってきたころ、リィンフォースさんはこの世で最後の言葉を口にした。
「主はやて―――どうか心安らかにお過ごしください」
―――さようなら。
その言葉は空気を震わせることができただろうか。少なくとも僕の耳には聞こえたような気がする。
そして、そ
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