A's編
第三十三話 後(1)
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、先ほどの言葉を否定してほしくて、冗談だ、と笑って否定してほしくてリィンフォースさんを正面から見た。だが、彼女はそんな僕をどこか微笑ましいものを見たようにふっ、と笑うと、グラスに唇を口づける。
「闇の書の闇―――クロノ提督がそう称した私を暴走させていた防衛プログラムは確かにあの時、小さき勇者によって跡形もなく消し去られた。だが―――」
リィンフォースさんは、そう言いながら標準と言えるよりも膨らんだ自分の胸に手を当てて、どこか諦めたような笑みを浮かべながら、実にあっさりと信じられない事実を口にした。
「今も防衛プログラムの原型はここに残っており、いずれ自動修復機能で再び復活するだろう」
「それは―――」
そう、それはつまり、夜天の書―――リィンフォースさんが再び闇の書へと戻ってしまうということである。
リィンフォースさんの言葉が事実だとすれば、それは実に残酷なことだ。ようやく解放された喜びを噛みしめているところに冷や水を浴びせれら様なものだから。今日のみんなの頑張りが無に帰すようなものだから。
そして、なにより、この人はずっと苦しんできたはずなのだ。長年、自らの主となった人物の魔力を使い、自殺ともいえる方法で転生を行い、本来の目的から外れた使い方をされ、魔法を収集する、ただそれだけの魔導書が闇の書―――呪われた魔導書などと呼ばれてきたのだから。
これから、これからだったはずなのだ。彼女が―――リィンフォースさんが本当の意味で魔導書に戻り、元来の目的通りに使われる。それは、意味のある存在意義を与えられた彼女にとって本懐であるはずだろう。
「少年よ、そんなに悲しい顔をしないでくれ」
傷ついている僕を慰めるように、優しい声でリィンフォースさんが言葉を口にする。その声色からは、仕方ないというような悲嘆ではなく、安堵したような、納得したような、どこか達観しような空気が感じられた。
どうして、そんな声が出せるのだろうか? 三度、僕の中で疑問の声が渦巻いた。
「もともと、たとえ防衛プログラムは永久的に復活しないにしても、私は自らの消滅を望んでいただろうから」
「………なんでですか?」
本当に僕には彼女の心情がわからない。今まで呪われた魔導書として生きてきた彼女が、ようやくその呪いから逃げられ、日のあたる場所へ出てくることができたのだ。それなのに、彼女は頑なに自らの消滅を望んでいる。どのような未来に分岐したとしても、彼女は自らの消滅を望んでいるようにしか見えなかった。
だが、リィンフォースさんは僕の質問にすぐには答えずに、どこか憂いを帯びた顔で、グラスに残っていた酒を飲み干すと、ゆっくりと噛みしめるように言葉を口にした。
「それは、私が私であるために………かな」
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