暁 〜小説投稿サイト〜
鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
25.西が東で南が北で
[1/6]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 
 リングアベル先輩は一体何者なんだろう。
 ベルは時々、その疑問を抱かずにはいられない。
 ……とは言ってもこの町に彼の正体を知る者は一人もいない。なにせ本人さえ知らないんだから。

 ダンジョン入りしたのは自分と数日しか違わないのに一緒にいるだけで異様な安定感があるこの男は、ステイタスにおいてもかなり先を行っている。ヘスティア曰く、恐らく記憶を失う前はもっと強かったんじゃないかとのことだ。

 一体記憶を失う前は一体どこで何をしていたのやら。少なくともアスタリスク所持者に近しい地位にいたことだけは確かだろう。この間の事件で一緒に戦ったあのジャンって人によれば、リングアベルの太刀筋にはどこか公国流のクセがあったらしい。世界のアスタリスクの半分以上を所持するエタルニア公国なら十分可能性がある。

 自分もアスタリスクの加護を受ければ強くなれるだろうか――とも思ったが、それはそれで何だかヘスティアの恩恵を信用してないみたいで嫌な気もする。結局強くなるには自力で頑張るしかない。

 同じLv.1でありながら、あの巨大なミノタウロスの腕を槍一本で吹き飛ばしたリングアベル。
 その後、それでも死ななかったミノタウロスを微塵に切り刻んで助けてくれたアイズ。
 後ろになんか犬耳の人もいたような気がするが、ベルにとってはそんなことは路端に転がる石よりどうでもいい。ダンジョンで追い詰められた自分を助けてくれたこの二大恩人を見て、ベルは自分の根本的な過ちに気付かされたのだ。

「ダンジョンで助けた女の子とイチャイチャしたいとか以前に、僕って他人を助けられるほど強くないよね……!?」

 ベルの夢、それはダンジョンで男女の出会いを果たす事。
 ある種その夢は、アイズ・ヴァレンシュタインという美し過ぎる女性に出会う事で叶ったともいえる。
 だが違うのだ。確かにアイズには恋い焦がれてるが、求めている展開は女性に助けられるという情けない自分ではない。ピンチに颯爽と現れて女の子を救い出して相手を惚れさせる格好いい男のベルが、その憧れには必要なのだ。そしてそれを実現しようにも、今のベルでは到底実力が足りない。

『人を助けるってのは、助けられるだけの力を持った奴だけがしていい事だ』

 前に『豊饒の女主人』でミアに言われたあの一言。あの時はリングアベルに向けられたものだったが、はっきり言ってかなり堪えた。自分の考えが机上の空論でしかない事を見事に指摘された気がしたからだ。
 もっと強くならなければ。今、ベルは猛烈にそう願っていた。幸い経験値を溜めるための必死の努力の甲斐あってか、現在ステイタスの伸びだけはリングアベルを大きく上回って成長中である。今日もまた、ベルはリングアベルと共にダンジョンで戦っていた。

「ベル!コボルドがそっちに
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ