第八十二話
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ゲームの生命線ともいえる《弾道予測線》は、相手を視界に捉えていなければ発揮されず、今は文字通り煙に巻かれている。この状態ならば――という思いは、風で爆煙がなくなった時に、その風に紛れる歌声に否定される。
「…………」
「うーん、今ので何回爆死しそこねたかな、ねぇショウキくん?」
知るか――と言い返そうとするも、爆煙を吸い込んだ影響で咳き込み、上手く言葉に出来ない。そう言っているリーベの手には、やはり銃などは影も形もない。そんな俺の不審な視線を感じ取ったのか、リーベは無造作に何も持っていない手をブラブラと揺らす。
「ウチは銃なんて持ってないよ? ドッカンと爆発させた方が楽しいしね! あー、でも今はちょっと違うのかな……」
『銃なんて持ってない』――あの踊り子はそう語る。この銃と硝煙の世界で何を言っているんだ、とは思ったが……モニターで見たキリトの戦いを思い返し、そんなことは関係ないのだと考え直す。それより、その後に言った『今はちょっと違う』の方が重要な話だ。
「種も仕掛けもありまっせん、っと! 今はこんな銃を持ってたり……なんかしちゃったりして?」
リーベはやはり手品師のように、その何も持っていない手に、突如として銃を出現させてみせる。そこに現れた銃は、銃に詳しくないどころか、全く知らないと言っていい自分ですら……知っている銃。何故ならあの銃は、俺とキリトがこの世界に来るきっかけになった、始まりの銃とでも呼ぶべきモノ。踊り子の片手に握られた黒い銃――
「《黒星》……!」
トカレフという名前の方が有名か、身体の小さいリーベでも問題ないような、何の変哲もない簡素な拳銃。メインウェポンにするほどの威力はなく、サブウェポンとしての運用となるが……それにしても旧型の銃で、このBoBという大会にはあまり似つかわしくない。もちろん自分もそのような銃の存在など知らなかったが、この世界に来る前に調べていた――あの《死銃》が持っていた銃として。わざわざあの銃を持っているということは、あの銃とリーベが《死銃》……?
「ばぁん!」
《黒星》を構えてこちらに撃つ振りをするリーベ。《弾道予測線》が出なかったことから、撃たれることはなかったが……撃った人間をゲーム内から殺傷する、という得体の知れない銃に、身体が自然と萎縮してしま――いや、そんなことがある訳がない。もうあのデスゲームは終わり、今更ゲーム内で殺人なんてことはないのだ、と言い聞かせる。
「ビビったビビった? それとも驚いた?」
そう言いながらリーベは《黒星》をどこかにしまい込むと、またもやその手を空にする。ただ《死銃》と思われる銃が彼女の手にあると思うと……やはり、こちらの行動は大きく縛られる。頭ではありえないと分かっているし、《死銃》が実
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