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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇
9部分:第九章
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変わらず巧妙ですね」
「まさかとは思ったけれどね」
 依子も述べる。
「貴方達なら話は別よ」
「左様ですか。しかしそれはこちらも同じこと」
 速水はまた言う。
「貴方が相手ならば」
「危ういところだったわ」
 沙耶香は蝶の毒から離れて速水に顔を向けていた。
「有り難う」
「いえ。御礼はまた今度」
「できることとできないことがあるけれどね」
「冷たいですね、それは」
「言いたいことはわかっているから」
 すっと笑ってこう述べる。
「やれやれ。相変わらずですね、私に対しては」
「何度も言っているように気が向いたらね」
 そう言って素っ気無い態度で返す。
「そういうことよ」
「左様ですか。もっとも貴女は違うようですね」
 速水はまた依子に顔を戻す。依子も彼を見ていた。
「ええ、勿論よ」
「敵というのが残念かどうかはわかりませんが」
「そうかしら。私は敵であってよかったわ」
 周りに蝶を漂わせている。その蝶をまた放ってきた。
「今度は違うのね」
「私のやり方は知っている筈よ」
 沙耶香に対して述べる。まだ周りに蝶達を漂わせたまま。
「一度見破られたものは二度はしない」
「ええ」
 沙耶香もそれに応える。
「そうだったわね。けれど」
 そのうえで身構える。今度は氷の刃をその手に出している。
「こちらも同じことは続けないわよ」
「そちらも相変わらずなのね」
「否定はしないわ」
 氷の刃から氷を飛ばす。それで蝶達を凍らせて砕く。紫の氷が割れ闇の中に落ちる。そのまま溶けて消えてしまう。しかし依子はまた蝶達を放ってきた。
「今度は私が」
 次に出て来たのは速水であった。その手には太陽がある。


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