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逆さの砂時計
不透明な光 3
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生だ」

 何の話だろう。
 クーリアは首を傾げる。

「アンタはガラスと外枠がとにかく(もろ)い。どこもかしこもひびが入ってて、上からも下からも砂が溢れてる状態だった。外部から軽くつつけば、簡単に瓦解するだろう。それをアンタの兄のガラスが補った。砂の流出を止めつつ多少強度も増したわけだが、外枠の脆さは変わってない。だから、俺の力を貸してやろう。アンタの体が壊れないように、一時的に外枠を支えてやる。俺と契約しろ」
「契約?」
「俺が力を貸す代わり、アンタは紅い髪の幼馴染みを絶対確実に助け出す。意味は解るよな?」

 絶対に、確実に、今後も少女に危害が及ばない救助。
 それは

「……私に、兄を殺せと言うの?」
「アンタにできるかな?」

 兄は悪魔に殺されたと言った。
 それなら、あれはもう、兄ではない。

「契約します」

 迷う必要なんて、ない。

「……成立した。行け」

 その一言で、クーリアは覚醒した。
 長い月日眠っていたせいで筋力が衰えている筈の体は、信じられないほど自由に動かせた。
 部屋に掛けられた鍵も、一度の体当たりであっさり壊せた。
 普段は悪魔の力で操られているらしい使用人達の体が、廊下のあちこちで無造作に倒れている。

 異様に静かで不気味な雰囲気の空間を走り抜けて厨房へ。
 そして、鋭く磨かれた包丁を手に取り……。



「私は、貴女を助ける為に、その声と契約しました。レネージュ様には大変申し訳ないのですが……兄が両親を手に掛けてそれを隠し、外部との連絡をほぼ遮断していたせいで、私達一族は、貴族としての役目の大半を放棄した形になります。近々爵位と領地を返上することとなるでしょう。ですがその前に、一族所有の財産を可能な限り村の復旧に充てる旨の書状を遺します。どうかそれを持って、村へお帰りください」
「クーリアは? あなたはどうなるの?」
「村の復旧も、貴女を助ける契約の一部とみなされます。村の皆様の生活がある程度安定するまでは、ここで一族最後の一人として役目を果たします。事実がどうであれ、兄を殺した罪も償わなければなりません。その後は……両親と兄の元へ召されるでしょう」
「! そんな……っ」

 クーリアは動揺するレネージュの前に立ち。
 その肩をふわりと抱きしめた。

「貴女と過ごした時間は、私の大切な宝物です。兄と悪魔にされた仕打ちは忘れようがないと思いますが……どうか、幸せになってください」
「クーリア……!」

 レネージュも、クーリアの細い体を抱きしめた。

 しばらくの間、クーリアの腕の中で泣き崩れ。
 落ち着きを取り戻してから、預かった書状を持って。
 レネージュは一人で屋敷を去る。

 クーリアは屋敷の前に立ち。
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