暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
不透明な光 3
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回数が増えた。
 憧れた少女に会う機会も減り、気力も体力も目に見えて衰えていく。
 兄は妹の代わりに毎日少女の様子を見に行った。
 少女がどうしているかを聴けば、ほんの少しだけ笑うからだ。

 妹は本当に少女が大好きだった。
 なのに、紅い髪の少女は漁師の手伝いをしながら平然と言うのだ。

 最近、妹さんは来ないのね、と。

 兄はどうしようもない憎悪を抱えて、毎日屋敷と村を往き来する。

 愛しい妹は弱っていく。
 憎い少女は笑ってる。

 いっそ、入れ代えられたら良いのに。
 妹が元気になって、少女が病気になれば良い。
 そうだ、少女こそが苦しむべきだと、兄は思った。

 そんな兄の頭の中に、不思議な声が響く。
 妹を助けたいか? と。
 兄は迷わず答えた。
 妹を救えるなら何でもする。
 妹を助けてくれ、と。

 声に身を委ねた兄は、指示に従ってまずは父を刺殺した。
 次は母を絞殺。
 使用人達には毒を盛った。
 たった一晩の凶行だった。

 兄に憑いた声は、不思議な力で使用人達の体を操って日常を演じさせる。
 外部との連絡は、どうしても必要なものを除く全部を使用人で断ち切り。
 妹も、表向きには突然の病で死んだことにして、部屋に閉じ込めた。

 部屋に鍵を掛けられた妹は、何も分からぬまま兄に体を奪われてしまう。
 お前に僕の命を分けてあげると。
 壊れないように優しく触れる手が、妹の正気を失わせた。
 それ以降、妹の発作はピタリと治まるが。
 その代わり、彼女は一切笑わなくなった。

 紅い髪の少女に関する話をしても。
 大好きなお菓子を作って見せても。
 まるで反応しない。
 心を閉ざし、声も出さず。
 起き上がろうともしなければ、飲食すらも求めない。
 妹は、呼吸するだけの虚ろな人形になってしまった。

 兄は嘆き哀しんだ。
 悲しくて寂しくて苦しくて、息が詰まる。

 物言わぬ妹の世話と延命に明け暮れる傍らで。
 兄の発作は日に日に増えていく。
 増えて、重くなって。
 とっくに狂い始めていた精神すらも、漆黒に蝕まれていく。


 少女のせいだ。


 ポツリと浮かんだ思いは急速に膨らんで、兄の意識を埋め尽くす。

 アイツが苦しまないせいだ。
 アイツが苦しめば自分達は救われる。
 アイツが笑ってるから自分達が苦しいんだ。
 アイツこそが苦しむべきなんだ。

 妹が笑わないのも。
 自分の発作が止まらないのも。
 何もかもがアイツのせいだ。
 全部アイツが悪いんだ。

 兄を動かしていた声が再び問いかける。
 少女を苦しめたいか? と。

 兄は答えた。
 自分の何と引き換えにしても構わないから
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