case.4 「静謐の檻」
[ 7.4.AM6:57
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ったばかりじゃないか!」
「そうなんだが…。」
俺は何と言ってよいやら検討もつかない。そうして暫くした時、山之内氏の隣に座っていた例の仲居が唐突に泣き崩れ、周囲の皆はビクッとした。
「菊代さん、どうしたの!?」
山之内氏は泣き崩れた仲居の肩に手をやって、そう彼女に聞いた。
「女将さん…私は…どうしたら…」
泣きながらそう言ったため、俺と相模、そして山之内氏は互い顔を見合せた。
「どうしたって言うんです?貴女がこれ程取り乱すなんて…。何か知っていることがあるのなら、このお二人に話して下さい。」
山之内氏がそう言うと、菊代と呼ばれた仲居は落ち着きを取り戻すように涙を拭い、深呼吸をしてから我々へと語り始めたのだった。
「これは…三十三年前の話に御座います。私も未だ若う御座いまして、この旅館で精一杯働かせて頂いておりました。私が入りまして数年後、先々代の龍之介様が旅館を土地ごと手放すと言う話を聞いたのです。ですが、先代の尚輝様は私共には案ずることはないと申しておいでで、私共は皆それを信じて働いておりました。」
菊代さんは過去を振り返るように、今まで誰にも語らずに仕舞っていた話を紡いでいたのだ。それは、先々代龍之介氏が失踪した謎を解き明かすものであり、我々はそれを聞いて愕然とする他なかったのだった…。
彼女の話によると、三十三年前の七月。先に亡くなった先代の尚輝氏、仲居頭の吉岡さん、そして庭師の金井さんの三人は、龍之介氏が旅館を売り払うのを阻止しようとしていた。三人はこの由緒ある旅館で働くことを生き甲斐とし、何よりもここが好きだったのだ。
だが、龍之介氏はそうではなく、横暴にも経営に据えていた尚輝氏を無理矢理外し、吉岡さんと金井さんまでもをクビにしようとしたのだ。彼らがいる限り、スムーズに事が運ばないことを悟っていたのだ。しかし、三人はこの横暴な振る舞いにその怒りを爆発させた。
この三人は共謀し、龍之介氏を亡き者にしたのだ。最初は自殺に見せ掛けようと試みたが、それでは全く辻褄が合わないと考え直し、最終的には失踪に見せ掛けることを思い付いたのだという。
龍之介氏は夕食後、部屋で一人珈琲を飲む習慣があったため、吉岡さんが予め用意していたタキシンという毒を入れて持って行かせたのだ。無論、その仲居は毒が入っているなど知りもしない。タキシンはかなり味がきついらしいが、煙草も酒も好きな龍之介氏には、これが分からなかったようだ…。
それから一時間程経って後、金井さんと尚輝氏が部屋へと入った時には龍之介氏は死んでいて、二人は遺体を何処かに隠したのだと…。
「私は…吉岡さんが珈琲に何かを入れるのを…見てしまったんです。数年してからそれとなく聞いてみたら、吉岡さんは全てを打ち明けてくれました…。私…今までこれを誰にも話しませんでした
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