恋に落ちる姉
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あたしが驚いているのには理由がある。ミナ…と呼ばれる治療師は、医者と全く別の存在で、魔法使いのようにどんな怪我や病でも癒やせる者達のことだ。でもこの広い世界に片手で数えられるぐらいしか存在しないと言われているし、もう伝説級の御伽話みたいな存在だと、思って、いた、の、に…!?
「えっラトゥミナ族って全員でどのくらいいるんですか!?」
「ちゃんと数えたことはないが…三百人ぐらいか」
多っ!めっちゃくちゃいるじゃんか!誰だ五本の指で数えるぐらいしかいないとか嘘言ったヤツ!百足の足全部足しても足りないぞ!
「だから、キミの弟も治せる。私のことを信用してくれ」
男の目に嘘はなかった。あたしはその熱意に押されて、気がつけばこくりと頷いていた。
「ありがとう」
男はほっとしたように微笑んだ。あたしの心臓がどきりっと跳ねあがる。
顔が熱くなり、どくどくと流れる血を意識する。
ああもう、あたしはなんでこんなに緊張して…病気なのかも。ノエルのあとにあたしも診て貰うべきかもしれない。
あたしは汗ばんだ頬に手を当てる。
この人を前にすると、いつもの気の強さがどこかに行ってしまったみたいにあたしは自分が女であることを強く意識してしまう。それが、こそばゆいような、誇らしいような…奇妙な気持ちだ。
「赤の色素を持つラトゥミナでは、赤いものが神聖とされる。例えばこの身をあかあかと流れる、血液」
男は挙動不審なあたしの様子を気にすることなく、あたしの手を引いたまま三度歩き出す。
「血には神が宿ると言われる。左耳の下、右耳の下、心臓、足の付け根、唇…右の耳にいるのは慈悲の神だ。唇に宿るは誠の神。互いをあわせ、己の誠でもって相手の慈悲に許しを乞う」
男の言葉は聖職者が唱える祝詞のように、また王の御前で唄う歌姫のように、なんの違和感もなく澄んだ水のような清らかさを以てあたしに染みこんできた。このまま、ずっと聞いていたいぐらい…。
「だから、その…急にあんなことをして驚かせたのは申し訳なく思っている。が、決して悪意あってのことではないのだ。私はラトゥミナを出て長いが、どうも、ラトゥミナの風習が抜けきらない。他人を動揺させることは避けるべきだと思ってはいるのだが…」
男は困ったように笑うと、ぽんとあたしの頭の上にその大きな手を乗せた。
「…たまにキミのようにラトゥミナのことを全く知らない人間を驚かせてしまうことがある。先ほどの『誓い』、友には本気で嫌がられた。ははは」
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