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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇
27部分:第二十七章
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から」
「プラドは広いわよ。それでもわかるのかしら」
「わかります。それに」
「それに?」
 今度は沙耶香が問う。問いながらすっと速水の目を見る。
「あの方の魔力はよく存じていますので」
「そうね。それは私も」
 沙耶香もそれに応える。
「そういうことね。それじゃあ」
「ええ。わかりますね」
「では今夜ね」
「今夜ですか」
「昼に行くわけにはいかないでしょう?」
 笑みを元の妖艶なものに戻す。そのうえで彼に言うのであった。
「決着をつけるのは」
「ふふふ、確かに」
 速水もそれに同意する。同意しながらカードを懐の中に収める。
「夜こそが相応しいですね」
「彼女にとっても私達にとってもね」
「やはり我々は夜の世界の者ということでしょうか」
 速水はうっすらと笑って言ってきた。
「どうでしょうか」
「そうね。少なくとも」
 沙耶香はそれに応えて述べる。
「夜が好きではなくて?」
「嫌いになれる筈がありません」
 笑みをそのままに答える。
「私にとっては。それは貴女も同じですね」
「勿論よ」
 沙耶香も速水と同じ笑みで返す。
「夜の美しさは琥珀と紫苑の美しさ」
 そう述べる。
「その中で戦うことこそが至高の美なのだからね」
「わかりました。それでは」
「ええ」
 二人は夜を待ち戦いに向かう。昼の太陽はやがて落ち夜の月が空を支配する。そこにあるのは黄金色の大きな満月であった。
 沙耶香はその月を見上げていた。見上げながら述べるのであった。
「まずは綺麗な月夜ね」
「これもまた戦いに相応しいですか」
「いえ」
 だがその言葉には首を横に振る。
「この月は戦いには相応しくないわ。むしろ」
「むしろ?」
「戦いの後にこそ相応しいものね」
 細い目をゆっくりと細めながら述べる。
「勝利の後でね」
「勝利の後でですか」
「そうよ。この月は」
 それが沙耶香の今の考えであった、その意識は時として気紛れであり時として確固たるものであった。今はその月を見て笑うのであった。


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