暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
不透明な光 2
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 理解を超えた恐怖と尽きない疑問が、レネージュを支配していく。

「レネージュ……ッ」

 グリークの苦しげな声が聞こえた。
 乱暴すぎる動きで、ベッドが絶えず軋んでいる。
 それ以上に、体の内側からギチギチミシミシと壊されていく音がする。

「……た……す、け……て……」

 絶叫と悲鳴と嗚咽と呻き声の間に紡いだ言葉は。
 ただただ獲物を味わうだけの獣には、通じなかった。



「うん、そうだよ!」

 夜の波打ち際で、黒髪の少年は嬉しそうに笑って答えた。
 月と星の瞬きがゆらゆらと水面に揺れて、少年の肌に影を映している。

「すごくきれいなお姉ちゃん。しあわせになれるかな? なれると良いな」

 少年はおそらく、結婚の意味もまだ理解してはいない。
 それでも、本心から純粋に、少女の幸福を願っている。

 少年も、少年に慕われている少女も、心根が優しい、良い子達だ。
 できるなら無傷で助けてあげたいと思うが、それは難しいだろう。
 自分達が人間として介入したら、村を救う手立てが失われてしまう。
 他所者の自分達には、村の経済を立て直せるだけの知識も財力も無いし。
 少女は、今の彼がどういう状態なのかを知らない。
 知る術も、仮に知ったところで、抵抗できる術も無いのだから。
 表立ってはどうにもしてあげられないし、今すぐにできることもない。

「ええ。貴方もまた彼女の幸せの一翼。どこでどんな風に存在していても、彼女の幸福をお祈りして差し上げましょう」

 難しい言葉だったかな。
 少年は、キョトンとした顔で自分を見上げて首を傾げ。
 にこっと笑ってから、家族の元へと走っていった。
 村人達も、何が起きているのか知らずに祝宴を開いている。
 新郎新婦の幸せを願い、明日からの準備に心を踊らせて。
 心からの笑顔を交わしている。

 自分も、何も知らなければ、素直におめでとうと言っていたのだろうか。
 末永くお幸せにと。
 良い仕事をしなさいと。
 女神アリアの名を掲げて。

 知ることと、知らないこと。
 知っていることと、知らなかったこと。
 それが、見える世界をこれほどまでに変えてしまうとは。
 教会に居るだけでは、気付けなかったに違いない。

「……少女レネージュに、幸福が訪れますように……」

 賑やかな暗闇の中。
 いたずらに砂を転がす波の音が、足元で無感情に反復していた。



 朝が来た。
 レネージュの目に、眩しい太陽の光が映る。

 映るだけ。見てはいない。

 一晩中、泣いても叫んでも、グリークはレネージュから離れなかった。
 出血が止まらなくても関係なく貫いて、掻き回して、何度も中に出した。
 指先すらも動かな
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