怪物祭 (上)
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―五分前―
「それにしても賑わっていますね〜」
リズがデイドラの腕にしがみつきながら大したことないように見回す。
「そうね。毎年飽きずにやっているのに、客足は減らないわね。まあ、それよりこれがまだオラリオの人口の一部でしかないことの方が驚きね」
それに同意するミネロヴァもまたデイドラの腕に自分のを絡ませている。
しかし、人の多さや賑わいを感心したように眺め回すデイドラはそのことに頓着していなかった。
「一部?」
デイドラは数日前まではただダンジョンを往復していただけの生活を送っていたために、言葉で聞かされはしたものの、オラリオの広大さやそのオラリオが抱えている人口の大きさに実感は持っていなかった。
が、こうしてメインストリートを埋め尽くすばかりの人々がただの片鱗であることを知り、その人口の計り知れない膨大さに実感が更に困難になったとデイドラは感じた。
――聞こえているかしら?――
しかし、そんなとき、それを遥かに凌駕する驚きに見舞われる。
直接に脳内に声が響いたのだ。
まるで頭蓋の中が空っぽでそこに設置されていた魔石動力のスピーカーから声が発せられているかのようだった。
例の幻聴かと思ったが、
――と聞いたところで、今は通信が一方通行だから、意味ないわね。まあ、いいわ。これから私の言うことを聞きなさい――
村では聞いたことない声で、まったくとしてその声に怨嗟の念はこめらていなかった。
あるとすれば、僅かな焦燥だった。
「そうだよ!冒険者はほとんどここに来ないから、ここに来てるのは未所属の一般人がほとんどだよっ」
「ここでは一般人よりも冒険者の方が多いから、そう考えると、ここにいる人達はほんの一部ね」
「って、あれ、デイドラ聞いてる?」
「何だかボーッとしているわね、今日のデイドラは」
驚愕のあまり、近距離で顔を覗き込んでくる二人に構うこともできない。
――何処かの年中発情期の色ぼけ猫の所為であなたの主神が危険な状況に陥るかもしれない。いいえ、きっとなるわ。だから、今から言う通りに動きなさい――
そして、真偽を確かめる間もなく下される、右の路地を円形闘技場に向かえ、という命令。
デイドラは逡巡する。
命令を下した途端気配を消した幻聴なのか否かも定かではない耳を介さず聞こえた流麗な声。
その声が告げる真偽の不確かな危機。
何を信ずればいいのかまるでわからない。
だが、デイドラは数瞬の迷いの末、従うことにした。
確固たる根拠はない。
しかし、強いてあげるならば、声に窺えた僅かだが確かな焦燥感。
それが、声が幻聴ではなく、血の通った何者かのそれであることと声が自分に伝えた内容が偽
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