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ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか
怪物祭 (上)
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「思った以上に時間を食ってしもうた」

 テュールは椿の工房を出ると、真っすぐ円形闘技場に向かって走っていた。
 先ほどまでいた工房が北東のメインストリートにあり、東のメインストリートにある円形闘技場に直接行った方が、西のメインストリートにあるホームに向かうより早いということもあったが、テュールはすっかり遅れてしまったことに焦り、誰かがホームで待っていることなど考えつくができなかったのだ。

 「しかし、やけに人が多いのう」

 東のメインストリート付近の路地をテュールはひたすらに人を掻き分けて走っている。
 既に円形闘技場は目と鼻の先だったが、狭い路地や、そこまで人が溢れていることもあって、それにテュールは気づいていなかった。

 が、すぐに気付くことになる。

 「モ、モンスターだぁああああああああああああっ!」

 円形闘技場から喧噪を塗り潰すような大音声が上がった。
 その途端悲鳴と怒号ともに人々が波が周囲に押し寄せた。

 「な、なんじゃっ――ふみぎゅっ!?」

 それはテュールのいた路地裏も例外ではなかった。
 背があまり高くない――つまり、低い――テュールには視覚で得られる情報からは周囲の状況を掴みきれず、まともに人の波に呑まれ、何度も蹴られたり、押し倒されたりして完全に前後不覚に陥った。

 「うぅ…………」

 そうして一分にも満たない時間の間の末に完全に人の波が引き、取り残されたテュールはいつでも着ているほどに気に入っていたワンピースをぼろぼろにして横たわっていた。

 『グゥルルルル……』

 地響きを起こしながら、その路地にぬぅっと現れた体高二Mの緑の大躯を揺らすモンスター、『トロール』が捉える。
 その瞬間、彼は口端を凶悪に吊り上げた。

 ――小さな私を追い掛けて?――

 そのトロールの耳にはただ『魅了』された相手(美の女神)の声が、眼前にはあの時の映像が繰り返し再生されていた。
 檻の向こうにいる女神から頬を撫でられただけで体の心を正体のわからない何かが駆け巡った。
 体が熱を帯び、心に今まで抱いたことのない感情が芽生える。
 ――ホシイ。ジブンノモノニシタイッ!――

 ただのモンスターに芽生えるはずのない独占欲に駆られる。

 ――小さな私を追い掛けて?――

 トロールは耳朶に残る声に体を震わせ、その女神の意図と異なる目標に足を踏み出し、

 『グルァっ!』

 爆走した。

 「うぅ………………っ」

 地響きでモンスターに気付いたテュールは力を振り絞り、ふらつきながら立ち上がった。
 しかし、その間に、トロールはその肩で、狭い路地の壁面を盛大に削りながら、巨大な足で地震を発生させながら、そのテュールとの距離を一瞬で
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