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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇
22部分:第二十二章
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いましょう。その日まで」
「さようなら」
 二人は最後の別れを交あわせて別々になった。沙耶香は一人になると夜の闇の中で煙草を取り出した。自分の右手の人差し指と中指に火を出してそれで点けた。
 軽く吸ってから煙草を手に取って煙を吐き出す。白い煙と共に濃厚な退廃がその口から漏れる。
「蝶、ね」
 沙耶香は一人呟いた。
「わかったわね。一つ」
 そう呟きながら速水のところへ向かう。夜の闇の中を影のように進んでいく。
 速水のホテルに入る。入るともうテーブルに着いていた。
「思った通りの時間ですね」
 速水は沙耶香を見てそう言ってきた。青を基調とした部屋の中でカードを前にしていた。
「愉しまれたようで」
「ええ」
 その言葉に眉を細めさせる。肯定の笑みであった。
「わかるのね、やっぱり」
「残り香で」
 速水はカードを切りながら述べる。
「また美しい方だったようで」
「花だったわ」
 沙耶香はそう答える。
「そして私は蝶ね。その美しい花を追い求める蝶」
「蝶ですか」
「そうよ。私は蝶」
 速水の方に向かいながら述べる。
「それもわかったわ」
「その蝶が私のところにも来たと」
「ただ。今は花はいいわ」
 しかし速水の誘いは断る。媚惑的な笑みと共に。
「もう堪能したから」
「おやおや。それは残念」
 苦笑いを作ってそう返す。
「私は割を食ったというわけですか」
「そう考えておいて」
「全く。因果なものです」
「それでね」
 沙耶香は速水に対して話を変えてきた。
「占いね」
「ええ。それでですね」
 本業である。速水はそれに対して述べてきた。
「今回はよく使うケルト十字ではなくホロスコープを使おうと考えています」
「ホロスコープね」
「そうです」
 速水は答える。
「それを使って調べてみたいと思います」
「調べる対象は?」
「それはもう言うまでもないのでは?」 
 沙耶香のその言葉にはうっすらと笑って返す。
「あの方ですよ。ですからホロスコープなのね」
「はい。それでは」
 机の上に重ねて置かれている二十二枚の大アルカナのカード。そのカードに触れるとすぐにそれは宙の上に舞った。速水の上で円を描き舞うのであった。


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