暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
不透明な光 1
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御曹子側が用意したという、純白のウェディングドレスを着せられて。
 レネージュはなんとも言えない気分になる。

 上半身をすっきり見せる形も、控えめな刺繍も、全部好みのど真ん中。
 寸法にすら、文句の付けどころがない。

 採寸した記憶はないし、好みを尋かれた覚えもまったくないのだが。
 肌触りの良さまで計算されているのが微妙に気持ち悪い。

「これを着けて、っと」

 ドレスを着付けてくれたふくよかなご婦人が、レネージュの背後に立ち。
 加工された貝殻のペンダントをレネージュの首に掛ける。
 開始時間ギリギリで完成した、子供達からの贈り物だ。
 丁寧に磨かれ、表面に独特の光沢を与えられた貝殻が五枚。
 うっすら陽焼けしているレネージュの首周りを美しく彩った。

「それじゃ、行こうか」

 可愛い盛りの子供達を思い浮かべている間にヴェールを被せられ。
 早く行くよと、背中を軽く押される。
 仕方がないとはいえ、容赦もない。

「……はーい」

 ふわりと咲くチューリップを逆さにしたようなスカートを片手で摘まみ。
 もう片方の手に小さな花束を持って、教会の礼拝堂へ向かう。

 今回の結婚式は、ごく一般的な、市民的な形式で行われる。
 貴族式で行う場合は準備期間を長く取らねばならないし。
 村の様式では簡素すぎるから、が理由らしい。
 これにはレネージュも納得した。

 村の様式は、結婚する男女が手を繋いで波打ち際に並び立ち。
 村の衆に見守られながら、二枚貝の上を新郎が、下を新婦が。
 それぞれ同時に、海へと放り投げるだけ。
 後はせいぜい、少し離れた場所にある街の役所で戸籍を書き換えるのみ。
 非常に質素かつ味気ないものだ。
 わざわざやる意味が解らない。

 貴族式を選び、堅苦しい場所で知らない人間に囲まれて挨拶に終始する。
 なんて、ひたすら面倒くさいこともしたくなかった。

 しかし。

「顔を上げろ、レネージュ」

 『傲慢』を絵で表現したらこの男の肖像画になるに違いない。
 そう確信したレネージュは、言われた通り大人しく顔を上げた。

 純白のヴェールを除けられ、夫となる男の顔を正面からじっと見据える。
 海の近くで暮らしているとは思えないほど白い肌。
 透き通るような青みが混じる銀色の髪。
 長い睫毛から覗く海の碧色は、黙っていれば綺麗だと思う。
 黙ってさえいれば。

 少年のあどけなさと青年の精悍さを併せ持つ顔が視界を埋め尽くし。
 紅を塗ったレネージュの唇に触れて……食らいつく。
 後頭部に回った男の手が逃げ道を奪い。
 男の舌が無理矢理口内に侵入する。

「っ……んん……!?」

 レネージュと同じく純潔を示す白を
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