不透明な光 1
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も不自然ではない結婚を選んだだけ。
しかも、村稼業が危機に陥っていることまで利用した。
何も知らない村人達は、御曹子の提案を受け入れてくれと、必死な様子でレネージュに訴えかける。切実な顔と口調で、毎日毎日説得を重ねる。
ここは、森林と平野に囲まれた平坦な土地の上にある、海辺の村。
森林一帯は貴族の私有地に含まれる為、そこにある資源に手を出すことは許されず、村の領域で耕す土には塩が混じって作物が実りにくい。
海沿いを利点にして港を開こうにも、都が遠すぎて人や物が集まらない。
せめて、村の近くに村長が管理権を所有できる資源豊富な山でもあれば、レネージュも迷いなく御曹子の顔面にウニの殻やカニの爪でも投げつけて「おとといきやがれ!」と高笑いしてやっただろう。
だが、現実はそう優しくない。
代替となる資源も産業も無く、稼ぐ手段を失って。
徐々に、けれど確実に困窮していく村の生活ぶりを見せつけられては。
どんなに嫌でも、レネージュには頷く以外の選択肢がなかった。
「あ、レネージュお姉ちゃん!」
「ホリィ」
陽焼けで浅黒くなっている上半身を潮風に曝した、黒い髪の男の子が。
両腕いっぱいに色とりどりの貝殻を持って、レネージュに駆け寄った。
「見て見て。あのね。これね。『しあわせのかいがら』っていうんだって。ペンダントとかブレスレットにして、体につけて、神さまにお祈りすると、これからずっと、しあわせになれるんだよ!」
「こんなに、たくさん……ホリィが集めてくれたの?」
「うん! ボクとエミィで、集めたの!」
ふいと横向くホリィの視線を先へと辿ってみれば。
立食式の宴会場の向こう、教会の入口扉の隙間から、ホリィとそっくりな黒髪の少女が、チラチラと恥ずかしそうにレネージュの様子を窺っていた。
扉に掛かっている可愛らしい指先には、白い包帯が巻き付けられている。
無邪気に笑うホリィの手にも、所々すり傷や切り傷、刺し傷まであった。
貝殻は色こそ美しいが、欠けた部分は鋭利な刃物同然だ。
加工前には鋭いトゲだってある。
拾って、その上素肌で抱え持つなんて、腕も体も相当痛いだろうに。
「ありがとう、ホリィ。エミィにも伝えて。あたしが喜んでたよって」
「うん! 式に間に合うように、お母さんに、おねがいしてくるね!」
教会へ向かってパタパタと駆けていく小さな背中。
その場に取り残されたレネージュは、うつむいて浅いため息を吐いた。
五歳になったばかりの双子の気持ちまで騙して、嫌いな男と結婚する。
村稼業を再開させる為とはいえ、晴れ晴れしい気持ちにはなれなかった。
「ほんと、女の子らしくなったものねぇ」
「………」
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