不透明な光 1
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でバカな提案してきたんだから、今更傷もへったくれもありゃしないわよ」
「だから、それは」
「あーあー、聞きたくなーい。心配しなくたって行くわよ、行きますわよ。大切な船の為だもんね!」
自身の両耳を覆うように、ポフポフと軽い力で叩きながら。
レネージュは既に準備が始まっているであろう海辺の教会へ向かう。
予定の時刻はだいぶ先の筈だが。
白い壁の所々に劣化が見える寂れた教会の前では、めでたい席に並ぼうと集まった村の衆が、どこぞから持ち込んだ酒とつまみを手に談笑していた。
式が始まる前だというのに、そこは既に立食式の宴会場と化している。
「ありがたいねえ。これで心置きなく漁に出られる」
「明日からさっそく網の手入れをしねぇとな!」
「あのじゃじゃ馬も、これでちったあ娘らしくなるだろ」
「見たか? 今朝の若様。よほど嬉しいのか、ずぅっと笑ってたぜ」
ほう、アイツは笑ってるのか。
きっとニヤニヤ笑いなんだろうな。
権力と財力を使って手に入れる玩具だもん、そりゃ嬉しいでしょうよと。
レネージュは忌々しい思いで奥歯を軋ませた。
レネージュは今日、村の近くの屋敷に住む貴族の御曹子に嫁入りする。
レネージュと件の御曹司は、一般に幼馴染みと呼ばれる間柄だが。
当事者は元より、村人達から見ても、決して良好な関係ではなかった。
少なくとも、レネージュが法的に結婚できる年齢になった去年までは。
子供の頃は、遠慮なく殴り合い、蹴り合った。
レネージュが村稼業の漁を手伝い始めてからは、非力だの役立たずだの、これだから女はだのと、毎日毎日、顔を合わせるたびに因縁をつけられた。
そして、一年前。
村が突然の大嵐に襲われて。
所有する船がすべて使用できない状態になるまで破壊されてしまった。
村人達にとって、漁はほぼ唯一の収入源。
船を一隻も出せなくなると、村の生活が立ち行かない。
困った村人達に、御曹子が突然こう告げたのだ。
「村の損害を引き受けます。代わりにレネージュを私に下さい」と。
父親からその話を聴いたレネージュは、口を開けたまま目を点にした。
彼女の認識では、喧嘩友達ですらない相手だ。
その提案はあまりに突拍子もなく、最初は意味不明だった。
そういう話にまるで興味がないと言えば嘘になるが、相手が悪すぎる。
当然、レネージュは断固拒否の構えを取った。
ところが。
レネージュが父親から話を聴いた翌日。
村に現れた御曹子がレネージュの耳に唇を寄せて、ささやいたのだ。
「ザマーミロ」と。
レネージュに好意があるわけではない。
むしろ悪意しかない。
彼女を貶める為に、囲い込んでいて
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