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藤崎京之介怪異譚
case.4 「静謐の檻」
0 5.8.AM9:23〜 prologue〜
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苦笑したのだった。
 まだ依頼人について話してなかったな。依頼人は、此花市と言うところで会社を経営している社長で、名を山之内洋子と言う。山之内氏は数年前に主人を亡くされたためその後を引き継いだのだそうで、その山之内氏の会社が出資して建てたのが、此花市音楽ホールということだ。今は亡き夫が音楽好きで、山之内氏はそれを思いだして市にとある提案をした。
 それは今ある旧いホールを解体して新しいホールを建てることで、資金の大半は山之内家が出すと言うもの。それも新ホールを建ててから旧ホールを取り壊し、その跡地には療養施設を建てるとか…。相当な資産家らしいな。まぁ、市も傍観しているわけには行かなかったのか、小切手の一枚は市からのもの…と言うことになっていた。実際はどうだか分からないがな。
「で、先生?その演奏会の予定は、一体いつなんですか?」
 俺が考え事をしていたため、田邊は俺の顔を半眼で覗き込んで言った。見ると、楽団員達もこちらへと視線を集中させ、話が進むのを今か今かと待っていたのだった。
「あ…済まない。この予定は、六月下旬から七月にかけての話だ。向こうでの練習も含めて、約四週間近くの滞在になる。最初に言ったが、もう費用は受け取ってるから、途中で抜けられるのは困るんだ。」
 俺がそこまで言うと、団員達は口を揃えて「大丈夫ですから次に!」と大合唱をかました。息が合うのも、過ぎたるはなんとやらだ…。そうして俺は、これからどう動くかを細かく説明したのだった。
「と言うわけで、コーラスはいつも通り田邊君に練習を任せる。僕が不在にするときは、オーケストラの練習をヴィオラの長橋君に任せることとする。言い忘れていたが、宿泊は依頼人が経営をしている旅館を用意してくれるそうだから、その点は心配無用だ。」
「以前、品川で泊まったようなとこじゃないですよね?」
 そう心配そうに言ったのは、リュートの真中だ。
 彼がそう言うと、皆が一斉に笑った…。ま、ありゃ酷かったがな…。
「皆静かに!」
 俺が手を叩いて言うと、一気に笑い声は収まった。そうして全て説明し終えると、再び合唱で「了解しました!」と大きな返事。何だか軍隊の大佐にでもなった気分だ…。俺はこの先が思いやられ、一人深い溜め息を洩らしたのだった。
 その後、俺はその場を解散させ、直ぐに家へと帰ることにした。此花市へ行く前に、かなり練習を入れなくてはならず、そのスケジュール調整と演目による各パートごとの練習日程を決めなくてはならないからだ。無論、田邊にも力を貸してもらうが、粗方は作っておかないと話にならないからな。
 だが、ここで一曲だけそれが大変厳しい曲があった。バッハの<マタイ受難曲>だ。僕が振りそこねた宗教曲の大作。今度こそは自分の手で演奏したかったのだが…そんな思いもつかの間。俺は再び事件に巻き込まれ
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