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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇
19部分:第十九章
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て」
 また速水が言葉を入れる。
「男性もまた。恋多き方なのです」
「情熱的なのかしら」
「それとはまた違います」
 沙耶香はこう返した。
「情熱的というよりは背徳的で。妖しいことを好むのです」
「耽美なのかしら」
「そうなります。ですからまた」
「このスペインでもですね」
「そうなります。だからこそ」
 ロスアンヘルスにあらためて言う。ロスアンヘルスもその言葉を聞きながらじっと沙耶香を見ていたのであった。その目を離しはしない。
「私達はこの依頼を最後まで果たします」
「ですから御安心を」
「わかりました」
 ロスアンヘルスはその言葉に応える。
「それではお任せします。妹のことを」
「ええ」
 こうして沙耶香と速水は依頼主であるロスアンヘルスに依子について述べたのであった。それが終わってからまた捜査をはじめた。
「一度占ってみます」
 速水は二人でマドリードの道を歩きながら沙耶香に述べてきた。
「何をかしら」
「あの方の居場所ですよ」
 沙耶香の顔を見て言う。
「本拠地をつけばこの捜査も終わりですね」
「確かにね」
 沙耶香もその言葉に同意して頷く。
「それを調べるのね」
「はい。ですが」
 速水はここでまた言う。
「あの方が相手ですし。容易な場所ではないでしょう」
「調べるのでさえ困難なのね」
「そうです。ですから」
 カードは出さない。その声だけで語る。
「こちらも暫く力を集めます。ですから」
「わかったわ」
 沙耶香は速水に対して頷く。
「じゃあ夜ね」
「夜に。何処で」
「貴方の部屋に行かせてもらうわ」
「いいことです。それでは」
「期待はしないでね」
 速水がその言葉に期待をかけるとすぐにそれを打ち消してきた。
「今から少しね」
「おや。今日もですか」
 その言葉に右の目元と口元だけで笑うが言葉は寂しそうであった。
「それはまた」
「マドリードに来てもね」
 沙耶香は言う。
「寝たのは日本の娘ばかりだからね。だから」
「だから?」
「スペインの娘も味わっておきたいのよ」
 まるで獲物を狙う蜘蛛のような目であった。その目でこれからのことを言うのであった。
「わかってくれるわね」
「嫉妬を感じますがね」
 そうは言っても強い言葉ではない。沙耶香のそうしたところも見ているといった感じの言葉だった。


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