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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十一話 奔流
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は役に立たんだろう」
私だけじゃない、ホアン、アイランズ、ボロディンの三人も訝しげな表情をしている。トリューニヒトが笑い声を上げた。
「有難い事に市民はそれを知らない、帝国軍には使えなくても同盟市民には使えるよ、鎮静剤としてね」
「酷い話だ、市民をペテンにかけるのか」
「政略と言って欲しいね、ホアン」
皆が呆れた様な表情をしている。
「鎮静剤は無理でも気休め程度にはなるかもしれんな」
私の言葉にトリューニヒトが肩を竦めた。市民は何処かで救いを求めている、希望を持ちたがっている。もしかすると上手く行くかもしれない。
「トリューニヒト、目薬をさして行け、眼が充血している」
「ああ、そうしよう」
宇宙暦 799年 3月 17日 アルレスハイム星域 第十三艦隊旗艦ヒューベリオン ヤン・ウェンリー
「では」
『では』
敬礼をするとスクリーンに映るキャゼルヌ先輩も敬礼してきた。敬礼が終ると通信が切れた。民間人輸送部隊の指揮をキャゼルヌ先輩に任せて自分は戦場に向かう。思わず溜息が出た。大丈夫だ、帝国軍はティアマト方面に居る。先輩の部隊が帝国軍に捕捉される可能性は皆無に近い。
「グリーンヒル大尉」
「はい」
「艦隊の速度を上げてくれ。それから進路をパランティアへ」
「はい」
グリーンヒル大尉が指示を出しオペレーター達が艦隊に指示を伝えている。もう直ぐ艦隊の速度が上がり民間人輸送部隊との距離が徐々に開くだろう。
同盟の防衛計画は破綻した。ガイエスブルク要塞か……、まさかあれを持って来るとは……。これなら最初から帝国軍を同盟領内に引き摺り込む作戦を執った方が良かった。その方が混乱は少なかった筈だ。どうして妥協してしまったのか。溜息しか出ない……。
悔やんでいる場合じゃないな。少なくとも撤退は問題無く成功したのだ。最悪の状況は回避出来た。後はフェザーン方面軍がどの程度の兵力を保持出来るか、そして追ってくる帝国軍を振り切れるかだ。それが同盟の命運を決める。厳しい状況だがビュコック司令長官なら何とかしてくれる筈だ。可能性は有る、グリーンヒル大尉にスクリーンに星系図を映すように頼んだ。
帝国暦 490年 3月 17日 帝国軍総旗艦ロキ クラウス・ワルトハイム
イゼルローン方面軍は回廊を抜け高速でティアマト星域に向かっている。方面軍の士気は高い。イゼルローン要塞を損害無しで奪回し反乱軍の勢力範囲に侵攻しているのだ。そしてフェザーン方面の帝国軍も回廊を突破して反乱軍を追っている。本格的な戦闘こそ無いが侵攻作戦は順調に進んでいる。これで士気が高く無ければ嘘だろう。
総旗艦ロキの艦橋が昂揚感に包まれる中ヴァレンシュタイン司令長官だけがそれとは無縁でいる。不機嫌なのではない
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