閑話―猪々子― 上
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何故斗詩だけを連れて行ったのか、それは猪々子の『家臣』としての意識の低さにあった。何事にも楽観的な彼女は袁紹に対しても友のように接していた。それがあの場においてどう不利に動くか、彼は理解していたのだ。
一刻の猶予も無く説明している時間も惜しい状況。猪々子に追従を命じれば屋台に意識が向いていた彼女は渋っていただろう。理由を説明さえすれば動いたが――それ自体が家臣失格である。
迅速に動かねばならない状況において、主の命に問い返すなど言語道断だ。
では猪々子が真に忠臣であったら? 状況は違っていたであろう。彼女も斗詩と共に動けたはずだ。
故に猪々子は誓う。主である袁紹が自身に躊躇う事無く命を下せるように、その命を即座に実行できる忠臣になろう―――と。
「ん……あれ…………そうか、寝ちまったのか」
斗詩が眠る寝台に、突っ伏すようにしていつの間にか寝ていたらしい。親友の姿は無く自分に布が掛けてある。
目覚めた斗詩は事の顛末を確認し。そのまま袁紹を探しに行ったのであろう。
「……うし! 行くか!!」
気だるい体に鞭打って立ち上がる。自分も二人に謝らねばならないこと――話したいことが沢山あった。
二人は中庭にいた。すぐに声を掛けたい衝動に駆られたが入りづらい雰囲気が漂っており、猪々子は思わず物陰に身を隠した。
「でも、麗覇様は私が自己嫌悪する必要はないと思ったはずです。なら麗覇様もそうじゃないですか!」
「……」
普段大人しい斗詩が口を荒げているのに驚く、しかし、だからこそ彼女の必死さが伝わった。
自分とは違い彼女はどこまでも主を気遣っている。罪悪感に潰されそうな袁紹を救おうと必死に語りかけている。
だが―――
「あのー」
「うぉっ!?」
「きゃっ、文ちゃん!?」
「なんか気まずい雰囲気で出づらかったけど、だまっていられなくなっちゃってさー」
苦しそうに言葉を紡ぐ親友の表情に思わず姿を現す。未だ割り切れない主のため、そして、もっとも苦しんでいるであろう斗詩のために。
気丈に袁紹に語りかけているが猪々子にはわかる。斗詩の言葉は自身にも向けられている。
彼女は責任感が強い。あの場で気を失う事になって何も思わないわけが無い。きっと今も自分を責めているだろう。だからこそ見逃せない。猪々子の母親から習った経験則から言えば、後悔で歩みを止めるほど無駄なことは無いのだから――
「二人とも難しく考えすぎでしょ、だってさ二人とも……いや助けた人含めて三人は無事だったんじゃん? なら、今更それまでの事を後悔し続けても意味が無いって言うかさー。アタイ頭良くないからうまく説明できないけど、次はそうならないように気を
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