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恋姫†袁紹♂伝
閑話―猪々子― 上
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「猪々子! あんた今度から袁紹様の御付な!」

「え〜……アタイはもう少し遊んでいたいぜ」

 文醜が数えて十になった頃、彼女は母親から仕官を命じられた。仕官先はあの名族袁家、その次期当主である袁紹の側近ともなれば大出世だ。
 誰もが羨むほどの地位だったが、遊びたがりの文醜に堅苦しい環境は苦手だった。

「そう……じゃあ斗詩ちゃんだけ袁紹様に仕えることになるねぇ」

「行く」

 母親の口から出た名に即座に反応する。大事な親友顔良、真名を斗詩、物心ついた頃からの付き合いであり、この世で一番大切な人。
 
 自分とは違いお淑やかで女性らしく、礼儀作法も完璧で文武両道、自慢の親友であり想い人。
 自分に無い物をすべて持っている顔良に対し。文醜は強く魅かれていた。

 その想いは、自身がこの世に女として生まれた事を悔いるほどに――






「なぁなぁ斗詩ぃー、ここにその袁紹がいるのかー?」

「袁紹『様』だよ文ちゃん、今日の挨拶で失礼の無いようにって、お母さん達に言われたでしょ?」

「わーってるって、ところで袁紹様はアタイ達と遊んでくれっかなー?」

「もうっ、文ちゃん!!」

 あれから数日後、例の親友である顔良と共に袁家屋敷の門前まで来ていた。

「良い? 文ちゃん、袁紹様は寛大な方って聞いていると思うけど、最低限守らなきゃいけない礼儀があるんだからね!」

「大丈夫だってぇ、その辺は母ちゃんと予習してきたからさ。手と足は同時に出しちゃいけないんだよな!」

「うー、お腹が……」

「拾い食いでもしたのか?」

 おどけた発言に顔良は睨むように此方を見つめる。言いたいことはわかっているつもりだ。
 それでも、ある不安を隠すために今はおどけるしかない。

 袁家次期当主、袁紹。幼少の頃から数々の書物を読破し。叔母である袁塊から直接武を叩き込まれている文武両道の神童。
 名族の出にも関わらずに、驕らず。他者を蔑む事もなく、無礼を働く者以外には友のように接し。屋敷内の人望を受けているとのこと、見た目は母親似で美しく、それでいて凛々しい顔立ちをしているとか……
 
 まるで御伽噺か何かのようなその逸話に大事な親友。顔良は興味を示していた。
 もしも噂が本当なら――親友は袁紹に惚れてしまうのでは? 彼女を想う一人の『女』として、それが気がかりだった。






 
 

「良く来てくれた。わしが袁逢じゃ、そして――おおっ、丁度来たようじゃ」

 袁逢様の言葉に反応して、目線の先に目を向けると、美丈夫が此方に向かって歩いている。

(うわぁ……)

 顔良と文醜達の目の前に現れたのは一人の美青年。美しく長い金髪は日の光を背にしているからか
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