夢の中 U
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語気を強める。
「許してくれ…………許し――」
「デイドラっ」
「っ!………………」
自分の名を呼ぶ声にぴくんと肩を僅かに跳ね上がらせ、震えを止めたデイドラは声に引かれるようにして、振り返った。
目に入ったのは、月光の中、階段の途中でデイドラを見下ろす、今にも涙を流しそうな悲壮な表情を湛えたノエルだった。
「大丈夫か」
「……ああ、大丈夫。ただ着替えてなくって寝苦しかっただけだ」
未だ怨嗟の声は途絶えておらず、平気であるはずがないが、デイドラは神経を擦り減らして、平静を装うとした。
しかして、努力は功を奏し、浮かべた笑みは引き攣っているものの声色だけは平常に近いものを出せていた。
この時自分が何故咄嗟にノエルを騙したのかわからなかった
「そうか。何かあればいつでも言ってくれ。私は、デイドラ、お前の家族だからな」
しかし、その家族を思うような慈愛さえ感じられる表情を見て彼は悟った。
自分はノエルを家族と見ている、そう悟ったのだ。
「ああ」
優しいノエルの声に答えるデイドラだったが、その声を消し去ろうとするように怨嗟の声が耳に纏わり付き、ほとんどの内容は聞き取れていない。
――お前は家族を見捨てたというのに――
これは父の声によるものだった。
「着替えたら自分のところで寝る」
それを無視しようとして、無視しきれなかったデイドラはテュールのベッドから離れて、ノエルのいる階段に向かう。
(俺の父さんはそんなことは言わない)
思いながら、デイドラは心の奥隅に黒い何かが巣くうように感じた。
「そうか」
ノエルは笑みを浮かべて先に階段を上り、デイドラはそれを追って階段を上った。
二階は一階と広さは同じ、というより二階の方が広い。
あるのはソファー二つ、洋服ダンス二つだ。
ソファーと洋服ダンスがそれぞれ一つずつが向かい合うように壁際に配されていて、部屋を均等に二つに区分けするように真ん中についたてがある。
怨嗟の声を聞きながら、デイドラはうち一つの洋服ダンスに向い、外出用の上衣とズボンを脱ぎ、寝巻に着替える。
既にノエルはついたての向こうだ。
「おやすみ」
着替え終え、デイドラがついたての向こうのベッド代わりのソファーに横になっているであろうノエルに言った。
「ああ、いい夢を」
ノエルは優しい声で返した。
それも、デイドラにははっきり聞こえなかった。
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