13部分:第十三章
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第十三章
「着いたぜ」
運転手はここで言ってきた。
「このアパートだよな」
「ええ」
沙耶香がそれに応える。
「ここよ。それじゃ今まで有り難う」
「おう、じゃあ今度は日本での武勇伝を聞かせてくれ」
「そうさせてもらうわ」
そんな話をして別れた。速水は二人になるとアパートの中へ向かいながら沙耶香に声をかけてきた。アパートの中は暗い階段が見えていてそれが上に向かって続いていた。
「男性か女性かまでは言いませんでしたね」
「それはね」
すっと笑って述べる。
「あえてね」
「相変わらず意地が悪い」
そんな沙耶香に苦笑いで返す。階段に足を踏み入れた。
「どちらが多いのかも」
「私は博愛主義者だから」
それが沙耶香の主張であった。
「だからよ」
「だからですか」
「そういうことなのよ。このスペインでもね」
「一昨日は日本の方ですか」
「プライベートよ」
それは笑ってオブラートに包み込む。
「残念ね」
「まあ相手はいいです。しかしスペインの女性ですか」
二人は少し薄暗い階段を上へ進んでいく。コツコツと音を立てながら石の階段をゆっくりと昇っていくのだ。見れば階段も結構な年季ものであった。
「貴方もどうかしら」
「いえ、私は」
また笑ってそれを返す。
「貴女だけと決めていますので」
「私の気紛れは何時になるかわからないわよ」
「ふふふ、もうそれもわかっていますよ」
相変わらずその言葉にも笑っている。
「待つのもいいものですから」
「そう」
「どうです。今夜は」
彼は階段を昇りながら提案してきた。
「ワインでも」
「いえ、夜ではなく」
「昼、ですか」
「そうよ。どうもスペインはね」
またしても楽しそうに笑ってからの言葉であった。
「昼も味わいがあるものだから」
「東京とは違い、ですか」
「東京は夜にこそなのよ」
それが彼女の東京という街に対する考えであった。彼は東京の夜を最も愛していたのだ。無論昼もであるがそれでも東京の夜に比べれば遥かに劣るものだと。東京の夜はこの上なく美しく、そして退廃した街だ。その退廃の中で飲むからこそ味わいがある、彼女は東京についてはそう考えていた。東京という街に対しての敬意から昼に飲むことはあまりしないようにしているのである。
「わかるわね」
「ええ。それでは飲みますか」
「お店はこちらで選んでいいかしら」
「はい、どうぞ」
それを彼女に譲ってきた。
「私はお付き合いしますよ」
「素直ね。裏があるのではないかと思ってしますわ」
「それはまた意地の悪い」
そう沙耶香に返す。
「私に裏があるのだと」
「その左目では何を見ているのかしら」
「右と同じですよ」
くすりと笑って言う。
「全くね」
「そう
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