第三話
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も旅立てる体になっているんだ。楽になれるなら楽が良いに決まっている。
俺の心は決まった。決意を表明するため目の前の少女の顔を見た。
まだ子供のあどけなさの残る少女の碧い瞳。その瞳を見た途端、様々な映像が流れ込んでくるのを感じた。そこからは絶望・悲しみ・怒り・諦め・恐怖・不安・孤独といったネガティブな要素がごちゃ混ぜになったものだった。それは目の前の少女が見てきた感じてきた世界なんだろうか。そこにあるのはまるで砂漠のような世界に悲しみだけを背負わされ、たった一人行き先もわからぬまま歩かされているだけ。もしそうだとしたらとても一人では耐えられるもんじゃあない。そんな世界をこの少女は生きてきたのだろうか。そしてこれからも生きていかなければならないのだろうか……。そう思った時、俺は遠のいていく意識の奥底から這いだしていくような感覚を覚えた。
孤独と悲しみだけの世界にこんな小さな子を置いてけないな。
それに俺にはやらなければならない事が少なくとも一つある。寧々を殺した奴をぶっ殺すこと。あんな酷い事をした奴は許せない許さない。
にわかに意識が活性化するのを感じた。
「死なずにすむんなら俺は君と契約する。この先にどんな事があったとしてもこのまま死んでいくよりはましな気がするし……」
少女は頷いた。自分の腰に右手を回したかと思うと、小さなナイフを取り出していた。左手の手首に刃先を当てたと思うと、思い切りよく横に引いた。ツーっと彼女の白い手首から、深紅の血が垂れる。
「……さあ、わたしの血を飲み契約を交わしなさい」
俺は言われたとおり彼女の手首から落ちてくる血液を口に含もうとするけど、僅かに上を向くだけで精一杯で体はちっとも動かない。ペタペタと俺の頭に降り注ぐ。考えるまでもなく、もう俺には指すら動かす力が残ってなかったわけ。
「まったく世話が焼けるわね……」
端正な容貌に僅かに苛立ちを表しながら少女は呟いた。
汝、我と契約し、我が騎士となれ。
絶えることなき永遠の時を我とともに歩み、我を護り、我とともに死すことを誓え。
重々しい言葉が脳内に響いた。
誰が喋ってるの?
俺はなんだかわからず、
「は、はい。誓います」
と、答えた。もちろん脳内で。
少女は左手を高く上げ、自らの手首から垂れ落ちてくる真っ赤な血をその口へと導く。その姿はなんだか凄く妖艶で美しくずっと見ていたい気がした。
唐突に彼女は左腕を下げると、両手で俺の顔を掴んだ。
刹那、彼女の顔が近づいてきたかと思うと、自分の唇に柔らかい感触を感じた。口を舌で押し開けられる感覚がしたと思うと、俺の口の中にしょっぱくて鉄の味がする液体が流れ込んできた。
一瞬驚いて彼女の顔を見る。すぐ側に少女の綺麗な顔があった
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