暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
責任を放棄した男
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人助けられない社会なんだなと、物悲しい気持ちが深まった。
 女の子一人を喰い物にした自分が言えた義理ではないけれど。
 これが、アリアが願っていた世界の形なのだろうか?

 遥か昔、救いを求める者に癒しの力で応えたという、救世の女神アリア。
 人間のみならず、命あるものすべてを愛して護った彼女は。
 この世界の現状を見て、何を思うのか。

「おいこら、クロスツェル。考えごとに没頭するのは構わないが、ちゃんと聞き耳は立てとけよ。何の為に、この俺が人間に交じってると思ってんだ」

 雑踏を先行くベゼドラが自分へと振り返り、不機嫌そうな顔で睨んだ。

「……すみません。お手数をかけます」
「ふん! アリアを見つけるまでの間だけだ」

 背を向ける彼に苦笑する。

 契約者として自分を喰いかけた彼も、現在ではアリアを捜す協力者だ。
 口ではアリアを殺す為だ、などと言っているが。
 ロザリアを想って捜しているのは明らかで、隠しようがない。
 半ば強引に付いて来たのは自分のほうだが、彼なりにいろいろ考えた上で同行してくれているのだと思う。

 アリアと違い、私達には思うがまま空間を瞬時に移動できる力などない。
 世界中を際限なく飛び回る相手に対してあまり意味がないとしても。
 人の噂にアリアの目撃情報があるかどうか、地道に調べるしかなかった。
 ベゼドラ的には不本意なやり方だろうが、彼の悪魔としての力は人捜しに適していないので、そこは潔く諦めてもらう。

 太陽が空の頂点で輝く時間。
 私達は着いたばかりの街で、行き交う人々の声を慎重に拾い上げる。



 私はもう、アリア信仰の神父ではないけれど。
 貴女に手酷く叱られる為に、貴女を捜しています、ロザリア。
 もしも再会できたら、貴女はきっと、開口一番にこう言うのでしょうね。

 この、バカ男!! と。


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