4部分:第四章
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何なのじゃ?」
「気に入った相手ならよ」
今度は目だけで笑ってみせた。妖しい笑みを。
「そうでなければ。誰でも彼でもではないわ」
「同じじゃと思うがな」
「摘み取る花は選ぶわ」
沙耶香はこう表現した。
「愛でる蝶もね」
「左様か。それにしても女子が多いのう」
「たまたまよ」
沙耶香にとってはそうである。
「たまたまね」
「ふむ、たまたまか」
「気に入った男がいればいいのよ」
沙耶香は言う。
「けれど。どうにも」
「ふむ。今はやはり女子がよいのじゃな」
「言い寄ってきたらまた別よ」
それで拒む沙耶香ではない。言い寄って来たならば男でも女でも拒むことはしない。だがそもそも彼女に声をかけてくる相手が非常に少ないのであった。
「いないのよね」
「主は声をかけにくいのじゃ」
老婆はそう沙耶香に答えた。
「どうにもこうにもな」
「そうね。自覚はあるわ」
当然ながらそれは自覚している。しかし。
「寂しいけれど」
「主に女子の服はどうじゃろうな」
「ドレスは着たことはないわ」
沙耶香はいつもこの黒いスーツにズボンだ。ドレスとは縁のない女なのだ。
「興味もないし」
「ジョルジュ=サンドか」
フランスの女流詩人である。ショパンとのロマンスが有名な男装の麗人である。
「それだと」
「嫌いではないわ」
うっすらと笑っての言葉であった。
「あの詩人はね。詩も人生も」
「左様か。予想通りじゃな」
それを聞いても驚きもしない。予想通りといった感じであった。
「ふむ。しかしサンドは男じゃったが」
「私は主として女ね。けれどそれでもいいわ」
「男が少なくともか」
「ええ。女には女の楽しみがあるから」
またあの妖しい笑みにしての言葉である。やはり沙耶香は女の肌も何もかもを心より愛しているのであった。その味を知っているからこそ。
「それでいいわ」
「では上海でも同じじゃな」
「そうね。何処でも変わりはないわ」
自分でもそれを言う。
「そこに美女がいれば」
「ふむ。して今度の話は」
顔が真面目なものになる。その顔で沙耶香に語ってきた。
「その女子が相手じゃ」
「何か。悪婦と聞いているわ」
沙耶香の目がクールなものになる。そうして表情もそれに準じさせていた。
「相当なね」
「そうじゃな。あれこそまさに悪婦じゃな」
老婆も沙耶香のその言葉に頷く。その通りだと言わんばかりであった。
「あそこまでやれば」
「毒殺が得意らしいわね」
「それで今に至る」
また沙耶香に語る。
「この上海の暗黒街の話は知っておるな」
「東京でもね」
自分が今いる街を出した。ニューヨークや上海と並んで、いや下手をすればこの二つの街よりもまだ退廃という濃厚な美貌に支配された街
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