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黒魔術師松本沙耶香 毒婦篇
3部分:第三章
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れで餅は五つ」
「それだけだね」
「ええ、それで御願い」
 今度はおかみさんにも答えた。
「ここで食べさせてもらうわ」
「あいよ」
「じゃあそれでね」
 こうして沙耶香はまずは手頃なところで朝食を済ませた。まずはこんなものであった。最後にお茶を一杯貰って店を後にした。味もかなりよく思いも寄らぬ場所での美食であった。
 その美食を終えてから彼女が向かうのは繁華街の裏であった。そこの奥の黒い地下への入り口を降りていくとその果てには一つの店があった。何やら中国か何処かさえもわからない様々な品物があちこちに置かれている。そうしてそのさらに奥にはやたらと鼻が長くしかもその鼻が折れ曲がった西洋の魔女を思わせる老婆が蹲るようにして座っていた。
「何じゃ、御主か」
「ええ、お久し振りね」
 沙耶香はその老婆にまずは挨拶をした。
「お元気そうで何よりだわ」
「ニューヨークで妹に会ったそうじゃな」
「ええ、会ったわ」
 その言葉にこくりと頷いたのだった。
「東京にいる姉さんも元気そうじゃしな」
「あの人も相変わらずよ」
 その言葉にもこくりと頷いてみせた。
「元気で。何時まで生きているやら」
「ふぉふぉふぉ、いいことじゃ」
 老婆は沙耶香のその言葉を聞いて顔を綻ばせるのであった。その声も顔と同じものになっていた。
「姉妹が皆元気ならばな。それでいいことじゃ」
「それにしても。本当に似ているわね」
 沙耶香が次に言うのはそこであった。
「最初見た時は移転してきたのかと思ったわ」
「それはないぞ」
 老婆はそれは否定したのであった。
「わし等はれっきとした姉妹じゃ」
「そうなの」
「しかも日本人じゃ」
「日本人ね」
 これにはいささか懐疑的な目を向ける沙耶香であった。それを自分のその低めながらも艶を存分に含んだ声で問うのであった。
「あまりそうは思えないけれど」
「では何人に見えるのじゃ?」8
「そう問われても困るわ」
 実は沙耶香には彼女が何人なのか皆目検討がつかないのであった。
「一応人間には見えるけれど」
「ふん。人間かどうかも疑わしいのか」
「そもそもこの上海に住んで何年なのかしら」
「さてな」
 しかもこの質問にもとぼけてみせる。
「戦前からじゃったかな。妹もあそこに随分と長いな」
「何もなかったの?その間」
 上海の歴史は動乱の歴史である。国民党時代にはここで日本軍と国民党の衝突もあったし共産党政権になってからは長い間日本と交流はなかった。文化大革命の発信地もこの街である。今も様々な人々が集い中国の魔都と呼ばれている。そうした様々な歴史や政治の事情がある街なのである。
「日本人で」
「国籍なぞどうにでもなるものじゃ」
 老婆は素っ気無く沙耶香に答えてみせた。
「簡単にな」

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