無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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いえ、その少年もアタシと同じ小学生のはず。それが、数人の高校生を相手に喧嘩している。いや、喧嘩ですらない。まるで大人が子どもを蹴散らすように一方的なものだった。
「さて、と。それじゃあ話を聞かせてもらおうか」
最後の一人が地面に崩れ落ちてから、年上の少年はリーダー格の男の胸倉を掴み上げて言った。
「まさかとは思うが、これが儲け話とやらか?」
その言葉の意味は良く分からなかったけれど……分からないなりにも想像がつく。つまり、アタシがお金持ちのお嬢様だから狙われたということなのだろう。
「だんまりか。まぁいい、質問を変えよう。誰に頼まれた?」
少年はそこでいったん言葉を切って、
「黙っているのは勝手だが……いや、指を一本一本へし折られても黙っていられるか試してみるか?」
自問するように彼が呟くと、リーダー格の男の顔色が青ざめたのが分かった。けれどそれと同時、
「おまわりさん、こっちです!」
道の向こうからそんな声が響き渡った。少年が手を緩めたのだろう。リーダー格の男はその手を振り払って立ち上がり叫んだ。
「逃げるぞ!」
今までその辺に転がっていた他の男達がぎこちなく立ち上がり、足を引きずって逃げていく。その背中を見送る暇もあればこそだった。
「逃げるぞ!」
言うが早いか、少年がアタシの手を掴む。返事を返す暇もなく――それどころか、文字通りあっと言う間に彼はアタシを引きずって走り出す。
「何でアタシ達まで逃げなきゃなんないのよ?!」
「この国じゃ喧嘩は両成敗なんだよ!」
それアタシは関係ないでしょ!――とはさすがに言いかねた。これでも多分庇ってくれたのだろうと言うことは分かっているつもりだ。それに、こんな風に誰かに手を引かれて走るのも初めての経験だった。
(つり橋効果ってやつかしら)
疲労とは別の意味でちょっとドキドキしている。もう少しだけこの逃避行に付き合ってもいいかな――そう思う程度には。
「やれやれ、まったく間が悪い」
ただ、少しだけで済んではくれなかったけれど。
「な、何でアンタ…あれだけ走って……けろっと、してる、わけ?」
気楽な様子で出された水を飲む少年を見やり、途切れ途切れに呻く。これでも運動にはそれなりの自信があるつもりだった。そのアタシが息も絶え絶えになるほど走ったというのに、その少年は息切れ一つした様子がない。
「多少は鍛えてるからな」
絶対に多少じゃない――その言葉を口にするのも面倒だった。行儀が悪いのは百も承知でテーブルに突っ伏す。ひんやりとした硬い感触はそれでも火照った頬には心地よかった。
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
「あ、お構いなく」
どことなく誰かに似た顔をした女性が紅茶とシュークリームをテーブルに並べてくれた。注文した覚えはないのだけれど、
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