無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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れに触れた他所の高校生が病院送りにされ、未だに戻って来ない言う噂は今も実しやかに囁かれ続けている。もっとも、それは誇張された噂で、その高校生は数日程学校を休んだだけ――と言う噂もある。ただそちらの噂の場合、欠席の理由は睨まれたせいで魘され続けたから、なんて失笑もののおまけがつく。いくら何でもそれは誇張しすぎだろう。真相を確かめようと思った事もないが、アタシはどちらかと言えば前者の方を信じていた。
ともあれ。そんな類の噂が噂を呼んで全部ワンセットになったからこそ番長的な存在になったのだろう。実際は違うのかもしれないけれど、その上級生が学校で一目置かれる存在である事は誰も否定しようがない。
さて。
そんな先輩の逆鱗の名前を高町なのはと言った。私立聖祥大学付属小学校の一年生で、アタシと同じクラスであり……一週間ほど前に取っ組み合いの大喧嘩をした相手だった。
「随分と遅かったわね」
逆鱗に触れた相手へ報復に来た。その時のアタシはそう信じて疑わなかったし、それは周りのクラスメイトも同じだったと思う。けれど、庇ってくれる訳でもなかった。いい気味だと思っていたクラスメイトも少なくなかったと思う。それくらい、この頃のアタシは我儘なお嬢様としてクラスに君臨していた。
「……君とは初対面で、特別何か約束はしていないはずだが?」
アタシの強がりに、ソイツは怪訝そうな顔をして見せた。
「アンタの大切な妹の仇討ちに来たんでしょ?」
「ああ、なるほど」
精一杯に強がって言ってやると、ソイツは気楽な様子で肩をすくめ苦笑して見せた。
「仇討ちと言っても、ウチの妹は今も健在だ。見たところ君はいつまでも根に持つ性質じゃあなさそうだし、それなら子どもの喧嘩に首を突っ込んだりしないよ。暴力は良くない。人の大切なものを乱暴に扱うな……なんて事はどうせもう耳にタコが出来るほど言われているだろうしな」
後半部分を除けば、まるで保護者のような言いようだった。けれど、親や先生のように四角四面でもない。なるほど、番長なる前時代的なあだ名は意外と的を射ているのかも知れない。そんな事を考え……そこで、ようやく自分の掌が汗まみれになっている事に気付く心の余裕ができた。腕を組む振りをして汗を拭いながら、改めてその先輩を見やる。
(正に先輩って感じね)
ストンと、第一印象が胸に収まる。実際に先輩なのだから当然と言えば当然なのだけれど……何と言うか、年上だという気配がする。なかなか上手い言葉で表現できないのがもどかしいのだけれど、纏っている気配が静かだった。まるでしっかりと大地に根を張った大樹のようにちょっとやそっとの風では動じない、そんな力強い静かさだ。畏怖というか敬意というか……そういった感情をごく自然に抱かせる雰囲気を纏っていた。
「……それじゃ、一体何の用なの?」
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