無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
[20/22]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
さん……」
「彼とはもう十年来の付き合いです。元々は現場からの叩き上げで、まだ若いうちからずっとわが社に勤めていて、真面目で誠実で……今では最も信頼していた側近の一人だったのですが」
多分、アタシ以上にパパの方がショックだったのだと思う。思い出した。確かパパがウチに招待したから、アタシは小父さまと知り合ったのだ。それくらい――きっと、友達と呼べる間柄だったのだと思う。
「一体何故……」
「だから富は恐ろしい。金欲は人を狂わせる」
項垂れるパパに応えるように言ったのは少年だった。
「俺の恩師――恩人の友人の言葉です。もっとも、彼自身も世間一般には金の亡者だと思われていましたが」
その時の少年は酷く懐かしそうな――そう。まるで古い友人を思い出すような顔をしていた。
「若くから勤めていたということは、それなりに苦労されていたのでは?」
「ああ……。彼は父親が早世してから母親を助けて働きづめだったと聞いている」
「では元々は母親を助けたいという想いだったのかもしれませんね。それがいつしか金に対する欲望に取って代わってしまった」
頬の血を拭いながら、それでも小父さまを見る少年の顔には怒りや憎しみなど宿っていなかった。むしろ悲しみだろう。……多分、小父さまが道を踏み外してしまった事への。
「……もし、世界中の人間が金持ちだったなら、こんな事は起こらなかったかもしれませんね。少なくとも、その友人ならそう言うでしょう。それが彼の信条でしたから」
「……その友人は今どこに?」
少しの沈黙ののち、パパはそう呟いた。
「さぁ。ですが、まぁ――生きているなら、今も金儲けに精を出している事でしょう。……貧しい人を救うために」
それが、こんな悲劇を未然に防ぐ事になると信じて――少年が言うと、パパは大きく息を吐いた。
「その友人は賢者だな。……聖者と言ってもいいか」
「恩師が聞いたら大笑いしますね」
本当に可笑しそうに少年は笑った。その頃には遠くでサイレンの音が響いた。どうやらパパ達が呼んだらしい。
「さて、警察も来た事だ。面倒になる前にさっさと帰ろう」
言うと、少年はアタシ達に背を向けさっさと歩きだした。
「待ってくれ!」
その背中をパパが呼びとめる。
「ぜひお礼をしたい。何でも言ってくれ」
「礼? それなら――」
少年は軽く振りかえると、小さく笑って見せた。
「まず貴方達が彼と同じ過ちを犯さないこと。偶には娘のために時間を使ってあげること。それと男を見る目をもう少し養わせること。あとは――」
その少年――高町光は最後に冗談めかしてこう言った。
「これからも翠屋を御贔屓に」
その一点に関して言えば、アタシは今も約束を守っている。そして、これからも守っていくだろう。今や彼の妹はアタシの大切な親友なのだから
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ