暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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に向けるのが妙にゆっくりと見えた。そして、銃声が響き渡って――
「大丈夫か?」
 誰かに抱きつかれ、地面を転がっていた。身体を起こすと、頬から血を流す少年の姿が見えた。銃弾が掠めたのだろうか。
「ヒーローごっこもほどほどにした方がいいですよ?」
 少年の額のすぐ前に銃が突きつけられる。映画の主人公だってきっと避けようがない距離だった。
「じゃあな、クソガキども」
 顔を歪めるようにして小父さまが笑い、引き金を引く――直前のことだった。
 ゴキ――ッ! と、鈍い音がした。小父さまの腕が、肘ではない所でくの字に曲がる。
「―――。あ――? ぎゃああああああああああッ!?」
 悲鳴は一瞬以上遅れた。腕を抱え転げ回る小父さまの傍らにはいつの間にかあの喫茶店のマスターが立っていた。手には鉄パイプを持っている。一体いつの間に。
「……士郎。人の見せ場を横取りするなよ」
「いやぁ、絶体絶命のピンチに見えたんだけどね」
「馬鹿言うな。これから逆転するところだったんだ」
「それは失礼」
 気楽な様子で言いあう二人を他所に、アタシはその場に座り込んでいた。完全に腰が抜けた。それに、精も根も尽き果てていた。泣くことも忘れ、ただ呆然と少年の姿を見つめる。
「アリサ!」
 少年が立ち上がる頃、聞き慣れた声が響いた。
「パパぁ!」
 足をもつらせながら、必死にアタシに向かって走ってくる。そして、痛いほど強く抱きしめてくれた。
「良かった。無事で良かった―――!」
「うん。うん……!」
 アタシも必死でしがみつき、声を絞り出すように泣いていた。ホッとしたのも本当だし、悲しいのも本当だった。もう何が何だか分からない。ぐちゃぐちゃした感情をただひたすらに吐きだしていると――
「止せ久保君! 早まるな!」
 パパの叫び声より少し早く何か鈍い音がした。振り返ると小父さまの身体が地面に転がるのが見えた。ふと思い出したのは、アッパーをくらってダウンするボクサーの姿だった。
「何も死ぬ事はない」
 少年は地面に手をつけたまま、小さく呟いた。
「君は一体……?」
 そしてパパは目を見開き、少年を凝視していた。その言葉に、マスター……少年のお父さんが焦った様子で何か言おうとした。けれど、それより先にパパが首を横に振って言った。
「いや、娘の命の恩人に野暮な事は訊かない事にしよう」
「感謝します」
 ふぅ――と、ため息をついてからマスターが頭を下げた。少年も小さく肩をすくめたらしい。良く分からない。一体何が起こったのか。
「久保君。一体何でこんなことを……」
 アタシが泣きやむ頃、パパは立ち上がって小父さま近づく。小父さまは大の字になって地面に転がり、完全に気絶しているようだった。それを見て、パパの顔が泣きそうなくらいに歪んだ。
「バニングス
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