無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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らだ。
「それで。結局何であの子にそんなにご執心なのかな?」
言われて返事に困った。明確な根拠などない――が、理由くらいはある。ただ、それを一体どう伝えれば良いのか。実はそれと同じ疑問を圭一にも問われた。彼にはここ数日の間に少々調べ物を頼んでいたのだが、その依頼をした時に、だ。その時は曖昧に誤魔化すしかなかった。しばらくはあらぬ噂を立てられ、からかわれるのは承知の上だ。だが、
「……魔物の気配ってのは、言い換えれば濃厚な欲望の気配だとも言える」
士郎が相手ならもう少しマシな言い訳を用意できそうだった。
「まさかあの子がそうだとでも?」
「まさか。だとしたら俺はなのはに張り付いているよ」
「ふむ。と言うことは、あの子は誰かに狙われていると?」
さすがに話が早い。とはいえ、それがどれほど差し迫った事態なのか――それについては俺もまだ判断しかねた。
(勘が鈍っていると言うことか)
相棒――御神美沙斗と一緒にいた頃と違い、毎日のように生命のやり取りをしているわけではない。なのはの面倒を見るようになってからは追体験をする頻度も目減りしていた。まどろむような平穏の中ではさすがの不死の怪物も勘を鈍らせるらしい。ただ、少なくとも圭一からの情報はある種の確信を抱かせるには充分だった。
「気の回しすぎかもしれないがな。だが、何かあってからじゃ――」
カラン、と。そこで誰かが店に入ってきた。最盛期からはいくらか時間が外れているが、それでも別に珍しくもない。だが、不思議と視線がそちらに向いた。
「おや、バニングスさんじゃないですか」
入ってきたのはアリサ――ではなく、彼女の父親だった。
「高町さん! もしやここはあなたのお店ですか?」
「ええまぁ。妻と共同経営です」
「なるほど。そうだったんですか」
「それで、ご注文は何にします?」
「ではシュークリームをテイクアウトで」
「承りました。おいくつ包みましょうか?」
そこまでは当たり障りのないやり取りだった。特に注意を払うべきこともない。だが、何かが引っかかった。違和感の招待を見極めるため、しばらくやり取りに耳を済ませる。
「ところで、何か浮かない顔をしていますね。何かありましたか?」
「いや、実は明日娘と出かける約束をしていたんですが、急な仕事が入ってしまいましてね。昨日から口を聞いてくれないんですよ。最近この店を気に入っているようなので帰ってくる前にご機嫌取りの準備をと思いまして――」
「ちょっと待ってくれ!」
そこで、思わず声を上げていた。今の言葉は明らかにおかしい。
「アリサはまだ家に帰っていないと言ったが、それはいつの話だ?」
「え? ああ、六時頃かな」
彼女が学校を後にしたのは四時過ぎ。二時間前には帰っている。まっすぐに家に帰ったならとっくに帰ってい
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