無垢の時代
廃墟を彷徨うワガママ娘
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りを買って出てくれた人に、アタシはとても懐いていた。
「あ、高男小父さま? すぐに迎えに来て」
携帯の向こうから了解の返事が返ってくる。
久保高男。パパの経営する会社の社員――それも、いわゆる側近の一人だった。それももしもパパに何かあったら会社を任されるような。最初の出会いがいつだったかあまりはっきりとは覚えていないけれど、気づけばよく出会うようになっていた人だった。年もパパと同じくらいで、留守にしがちなパパの代わり。そんな風に思っていた。
「やぁ、アリサさん。待たせましたかな?」
程なくして、小父さまが店に入ってきた。
「ねぇ、高男小父さま。シュークリーム買って」
「買い食いですかな? それはあまり関心しませんが」
「帰ってから食べるわよ」
「ハハッ。それなら仕方ありませんな。どれどれ――」
会計を済ませた小父さまについて店を出ようとすると、妙に真剣な顔でその少年は言った。
「また明日も一緒に帰らないか?」
「そうね。考えておくわ」
思えば、その少年――高町光はこの時からすでに分かっていたのかもしれない。全てが終わった今思い返せば、そう思わなくもない。
6
「そうね。考えておくわ」
そんなやり取りをかわしてから三日間――最初の一日を含めれば四日間か。俺はその少女と一緒に帰ることになった。二日目からは連中が絡んでくることもなく、平穏無事な道行だった。問題は日増しになのはが不機嫌になることくらいか。アリサはなかなか頭が良いようで、話していて飽きない。まぁ、一方的に俺が楽しんでいるだけだったかも知れないが……少なくとも翠屋は気に入ってもらえたようで、日々のお誘いを袖にされることはなかった。
「おや、今日は一人なんだね」
……少なくとも、今日までは。翠屋のカウンター席の隅に一人座っていると、士郎が少々意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
「まぁな」
士郎が淹れてくれた珈琲に口をつけながら肩をすくめる。珈琲の淹れ方はようやく様になってきたらしい。なかなか悪くない味だった。
「今日は何やら機嫌が悪かったんだ」
不機嫌さを全身で表し、さっさと一人で帰ってしまった。取り付く島もないとはあのことだ。昨日分かれた時の様子からすれば、俺が何かした訳でもないだろうが。
(なのは辺りがついに爆発したか?)
可能性で言えばない訳ではない――が、おそらく違うだろう。あの不機嫌さは寂しさの裏返しだ。ここ数年、俺はそれと向き合ってきた。いや、孤独と向き合ってきたと言うなら、もっと永い。そして、これからも永く続くだろう。
(無理やりにでもついていけば良かったか?)
所詮、年端もいかぬ少女が相手だ。ついていく方法などいくらでもあった。だが、それをしなかったのは、おそらくそれをすれば彼女の誇りを傷つけることになるか
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